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ボクが恋するそのために

 今日も今日とて、楽しい登校日和。

 ……のはずなんだけど、昨日の充と凪くんのやりとりが頭から離れないんだ。


 喧嘩をしていたわけでもないし、なにか問題があったわけでもない。

 充が過保護すぎるのは昔からだから、心配するような事はないと思うけど、それでもあの充の声はボクの心にも重く響いていた。


 凪くんは特に気にしていないと言っていたけれど、本当に大丈夫かな?


 いつものように空を見上げれば、どこまでも晴れ渡る空。

 今のボクの心はとても晴れ晴れとはしていない。


「君はボクの心を映しているものだと思っていたよ」


 そんなはずないのに。我ながら傲慢ごうまんな考え方だよね。

 

 これだけ気持ちの良さそうな空の下は、色んな明るい表情が見られるんだ。

 やっぱり、天気というのは人の気分に大きく影響を与えるんだろうね。


「……あれ、今日カナメはいないのかな?」


 いつものように学校には到着したけれど、ボクに声をかける綺麗な声は聞こえない。

 校庭や玄関周りを見渡しても、彼女の姿は見当たらない。


 珍しく寝坊でもしたのかな? 彼女の声の聞けない朝というのも、なんだかモヤモヤとしてしまうね。

 

 しばらく待ってみても、カナメの姿は見当たらない。すでに大体の生徒が登校を終え、正門から入ってくる生徒は見えなくなって来ていた。


「どうしたのかな」


 これ以上長居すると、ボクも遅刻してしまいそうだ。とりあえず教室に向かおうか。

 靴を履き替え教室へと向かう。

 カナメとの挨拶もいつも楽しみにしていたから、彼女の声が聞けなかったのはとても辛いな。調子が狂ってしまいそうだよ。


「あれ、カナメ?」


 教室に到着すると、充と楽しそうに話すカナメの姿があった。

 なるほど、遅刻や休みではなく、先に来ていたんだね。ボクとしたことが、その可能性を考えていなかったよ。


 ……しかし、とても楽しそうにお話ししているな。話しかけてもいいものだろうか。


「あ、おはようエリー! ごめんね、今日先に来ちゃって。もしかして、あたしのこと待ってた?」


「おはよう。別に待ち合わせている訳じゃ無いからね、そういう事もあるさ。気にしないでおくれ」


 あちらから気付いてくれて良かったよ。逆に変な気を使わせてしまったかな?


「おはよう、愛理。昨日は悪かったな。別に怖がらせるつもりじゃなかったんだが」


「そうだよ充! あの後凪くんから、君のことをどれほど聞かれたと思っているんだい? ボクだってもう大人だ。あまり過保護にならないでおくれ!」


 充は悪びれた様子もなく、軽く相槌を打つだけ。カナメはなんだか笑っているじゃないか。

 馬鹿にされている気分だよ。


「悪かったって言ってるだろ? これやるから、勘弁してくれ」


「なんだい、これは?」


 二枚のチケット? これは……近くの遊園地のチケットかい?


「ああ、なんか知らんが母さんから貰ったんだよ。俺にくれたって、誰といけってんだよな? ちょうど余ってるし、昨日の詫びも兼ねて使ってくれ」


「いいのかい? 君が貰ったんだから、君が使うべきじゃ無いのかい?」


「だーかーらー、一緒に行く相手がいねぇだろうが。一人でいくほど好きでもねえし。お前たちが使ってくれた方がチケットも喜ぶだろ?」


 なんだか、充らしく無い発言にも聞こえるけど……。


「いいじゃんエリー。凪くんともっと仲良くなりたいんでしょ?」


「それは……ボクだって、貰えることはとても嬉しいよ」


「それが進藤の応援の気持ちだって。受け取ってあげなよ」


 うむむ。カナメにまで言われて、断る理由はないか。

 なんだか申し訳なくなっちゃうな。


「分かったよ。充、ありがとね。期待に応えて楽しんでくるとするよ」


「おお、楽しんでこい」


 とても嬉しいことなのに、なんだか釈然としないのはなんでだろう。やっぱり、ボクは嫌な女なのかもしれないな。


 話も落ち着き、チャイムも鳴ったため席に戻る。

 あんな風には言ったけれど、凪くんとの遊園地デートか……そんなこと、楽しみに決まっているじゃないか! 

 凪くんの予定が空いているといいなぁ。


   ※ ※ ※


 授業後、みんなが帰宅や部活に勤しむ中、ボクは教室で待機中。

 凪くんは今日も迎えに来ると言っていた。早く来ないかな。


 今日の充はサッカー部にお呼ばれされたらしい。カナメも今日は先に帰ってしまっている。

 すでに誰もいない教室に、一人で呆けているといるというのは、そんなに悪いことじゃない。


 誰もいない、この静かな空間での考え事というのは、中々どうして、思考が捗るというものだ。

 外から聞こえる運動部の元気な声。まだ明るい空は、夏が近づいていることを知らせてくれている。


 夏かぁ。凪くんとプールなんていったら、楽しいのかな。泳ぎはそんな得意ではないけれど、可愛い水着とか着てみたいな。……彼はどんな反応してくれるんだろう。


「朱思先輩、遅くなってしまい申し訳ありません」


「凪くん! 全然待ってなんかいないよ、気にしないでおくれ」


 こうして迎えに来られた時、ボクは無意識に彼に駆け寄ってしまう。すぐにでも凪くんの側に行きたいと、常に思っているからなのかな。


「ありがとうございます。では一緒に帰りましょう」


「うん。今日もよろしくお願いするよ」


 すでに何日か一緒に下校してみて、やはりボクは彼と一緒にいることが楽しいんだと思う。

 こうして隣を歩き、他愛もない話をすることが、たまらなく好きなんだ。


 色んなことを考え、色んなことを話し合って、お互いのことを知っていける。とても有意義な時間だろう?

 

 ──ああ! すっかり忘れるところだったよ。彼に渡さなくてはいけないものがあったんだ。


「凪くん、今度のお休みは空いているかい?」


「? はい。というか、朱思先輩のためであれば、予定が入っていたとしても空けさせていただきますが……どこかへ行きましょうか?」


 なんとなく、彼の顔を見つめてしまう。自分でも理由は分からないけれど、少し寂しい気持ちというか、物足りない感じというか……なんだろう。


「えっと、どうかしましたか、先輩?」


「あ、ううん。なんでもないんだ! これ! 充から貰ったから、一緒にどうかと思ってね!」


「これは……」


 チケットを受け取った凪くんは首を傾げ、少し恥ずかしそうに目を背けるんだ。

 なんだいその仕草は! 可愛いな、君は!


「つまり、デートのお誘いということ……ですか?」


 そうか! これはボクからのお誘いになってしまうのか!

 そう言われると少し恥ずかしくなってしまう……不覚だぁ。


「そ、そうさ。ダメかい?」


「いえ! とても嬉しいです! 一緒にいきましょう!」


 まったく、そんな嬉しそうにされると、表情がうまく言うことを聞かなくなってしまうじゃないか。ボクの頬の筋肉はプルプルしているぞ!


「良かったよ。今度のお休みがとても楽しみになってしまうね」


「ええ。自分も一度調べておきますね」


 なんというか、凪くんは子供みたいだな。

 見た目はとても大人だというのに、その喜び方はまさに、遊園地を楽しみにする子供そのものだ。可愛いったらありゃしないよ。


 ──ほんと、今度のお休みが楽しみで仕方なくなってしまったじゃないか。どうしてくれるんだい?

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