◇life5 「平家物語の作者って…?」
僕のテストも結果によっちゃかなり危険Σ(゜□゜;)
「…えっと、お邪魔みたいだから私たちは帰るわね?」
真っ先に切り出したのは伊織。
「待ちなさい!二人とも」
渚先輩が何やら二人に耳打ちしている。
「私一人にしないでよ…!望まれて来たわけじゃないんだから…」
「いやいや渚先輩、会長の指令は"絶対"じゃないですか」
「私たちがいるとかえって足手まといになる可能性が…」
では、そういうことで…、と二人はさっさと部屋へ戻っていった。
二人が退室すると、渚先輩はキッと効果音が聴こえるほどの勢いで俺を睨んだ。
いやいや、俺は悪くないだろ…。
いや、俺の責任か…。
「あのー、俺も抜けた方がいいですか…?」
何を言っているんだ翔!お前までいなくなっちまったら俺はどうする?!それに先輩も望んでないだろ!
「………、いいわ」
は?
「行きなさい…」
ハァ??!
「じゃあ俺もこれで…」
翔は部屋を出る直前俺に意味深な、哀れみか蔑みかわからない微笑みを残して、去っていった。
沈黙……。
「フフ……」
何かとても悪寒を感じる。
「フフフフフフ…」
先輩…?!
「……もう決心したわ!!こうなったら何が何でもあなたをトップクラスにしてあげる!!……、言っとくけど、生半可なことはしない主義なの…。覚悟しなさい、寝られると思わないことね……」
半分ヤケの渚先輩の言葉はなぜかとても…、とても笑える内容ではなかった。
◇
「何で渚に行かせたん?」
尋ねたのは逸樹。本日土曜日、生徒会棟生徒会室には会長の南雲悠と他、香奈とルナを除いた会計の3人がいた。もっとも祐介は机に突っ伏して睡眠しているので、実質、悠と逸樹、智子がデスクワークを行っている。
「ああ、それな」
悠はパソコン画面を見たまま、タイピングを続けたまま答えている。
「特に意味はない」
「…マジで?」
「こんなところで嘘ついてどうする?」
逸樹、唖然。そりゃ入った1日目からやたらと晃のことを毛嫌いしているように見えた渚を、わざわざ派遣したのには何やら意味があるのでは、と思うだろう。
「単に土日フリーだったことと、まぁアイツなら晃の学力の件も心配はないだろう、と…思ったんだが」
「…まったく…適当な采配…」
智子が口を開いた。
「まさにその通りや!えぇか、悠?もっと人間関係っちゅーんを…」
「…正解だと思うけど…」
「なんでやねん!」
すかさずつっこむ逸樹。だてに関西人やっとらんわ!
「まぁとにかく、あれはあれで成り立つ」
何を根拠に…。
「まぁ、晃の件もそうだが…」
そう言ってタイピングを止め、パソコンを閉じた悠はパチンと指を鳴らして、視界の隅で机に突っ伏すヤツの髪に弱い炎を放った。
「コイツにも問題がある…」
数秒後…。
「…うゎっち!!!!??おい?!熱っ??!」
飛び起きる祐介。すかさず炎を取り込んで消火。
一般人なら大火傷を負うところだが、一応Sランク火炎能力者なのでそれなりに炎には耐性がある。それでも睡眠中なんかは意識外ということもあり、結構熱いらしいが。
「…おい、悠…。」
いつも不機嫌そうな顔つきだが、今は間違いなく不機嫌だ。
「…何で初等部までサラサラストレートだった俺の髪が、こんなクルクルになっちまったか…教えてやろうか?」
なるほど、祐介の縮毛は天然ではなく、居眠りのたびに髪を燃やされてこうなったというわけだ。
一段と"クセ"に磨きのかかった彼は「今にもお前のそのキレイな赤髪、燃やしてやろうか?」と言わんばかりいきり立っていた。
「そんなことどうでもいい、…仕事だ」
悠は祐介の嫌みをもろともせず、書類を渡した。祐介はしぶしぶ目を通す。
「……!!どういうことだよ」
横から逸樹が書類を覗きこむ。
「…あらまー、祐介どんまい」
「何で会計の俺が"理事交渉"に行かないといけない!?」
「"決定事項"だ」
不満丸出しの祐介だったが、"決定事項"という言葉を聞いて肩をすくめた。それもそうだ、悠が"決定事項"としたことは絶対なのだ。何人たりとも拒否権はない。それでいて頑固なので、一度決められたら9割9分8厘は逃れられない。あの渚が晃の教育係として駆り出されたのも、"決定事項"だった。
「……面倒くせぇ…」
"決定事項"が使われた以上、どうあがいても無駄なことはわかっているため、祐介はしぶしぶ生徒会室をあとにした。
「……何しに行かせたの……?」
「理事会から"アイツら"に釘を刺す。この前のサバイバルのように、勝手なことばかりさせられないのでな」
とても納得したようにこくこくとうなずく智子。
「理事会も絡んどんやったらあんま意味ないんちゃうん?」
「それでも生徒が危険にさらされることはさせない。あと、ついでに藍沢宙の件も聞き出す」
「なるほど。今ここに晃がおったら、とんでもない形相で迫っとるやろな」
しばらく考えこむような仕草をする悠。そして彼の口元がつり上がる。
「……これだ…フフ」
◇
一方晃と渚。
「1から5までの番号のついた5枚のカードから2枚を同時に引くとき、2枚のうち大きい方の数の期待値は?」
「えぇー…、期待値?」
「E=4!!…間違えるたびにあなたの使いッパポイントが溜まるのをお忘れなく」
「そんな話聞いてね…」
「問答無用!!!!」
ポンと俺の肩に置かれた彼女の右手から電気ショックが流れ込む。
「次!!平家物語の作者は?」
「…、紫式部…?」
ミスったか…?しかし電気ショックは来ない。すると先輩は少し驚いたような顔をしている。
「ずいぶんまともな間違いね。紫式部は"源氏"物語よ、答えは吉田兼行…兼行法師でも構わないわ」
良かった…間違えても毎回電気ショックじゃないのか。
甘かった。
「でも間違いは間違いよ?」
先輩の右手が再び肩に触れる。
あぁ…、俺はもしかしたら今日死ぬんじゃないか…?
そんな俺の不安をよそに、翔たち3人は外食に出かけたらしい。
地獄のような週末は、まだ始まったばかりだ…。