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終着駅の恋人  作者: さつき けい


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4・ウエストの先の駅


 もうすぐ十八歳になるセナリーは魔法学校をあと半年で卒業する。


就職先はすでに決まっていて、現在はその医療施設に週に三日は通っていた。


 セリの担当している病棟は未成年の子供たちが数名いる。


その子らはすでに医者の手では助けることが出来ないとされていた。


その最後の日まで、年齢が近い学生が彼らの話し相手になることで子供たちを慰めている。


「セリお姉ちゃん、遊ぼう」


自分の担当の子供たちに誘われ、いつもなら喜ぶセリだが、


「皆、ごめんね」


今日は少し落ち込んでいた。


 先日の魔力のある子供を狙った事件。


セリは、憧れの先輩であるイコガとたまたま出会い、事件の解決に関与してしまう。


後日、再び先輩に出会ったセリは、自宅に送ってもらった上に色々と他愛のない話をした。


事件現場近くで気分が悪くなったセリを、彼が無理に気を逸らしてくれたのだと気づいたのは別れた後だった。


無口な先輩に気を遣わせてしまった。


「お姉ちゃん、どうしたの?」


さらに子供たちにまで気を遣わせてしまい、セリはかなり落ち込んだ。




 事件以降、魔法学校の生徒は帰りが遅くならないようにと指導を受けている。


その日も陽が落ちる前に病院を出た。


駅前の広場を通り、美術館や飲食店の外に設置されたテーブルをさりげなく見回す。


イコガがどこかにいる気がして。


「そんなうまくはいかないわよね」


当然、姿を見かけることもなく駅の中に入る。


セリの家は西口を出て少し行ったところだ。


 駅の時刻表を見ると、西の都市ウエストの文字が目に入った。


「コガ先輩、ウエスト出身だっけ」


ぼーっとしていると肩を叩かれた。


「ひゃっ」


「おいおい、何て声じゃ、セリ」


祖父が仕事帰りに孫娘を見つけただけだ。


「何でもないわ」


慌てて一緒に歩き出す。




「ねえ、お祖父ちゃんは昔は鉄道列車の運転士だったでしょう?」


「ああ、そうじゃ」


美術館の守衛は運転士を引退した後、勤め始めた。


「ウエストは行ったことある?」


セリは幼い頃は祖父と列車で何度か遠出もしたが、最近は滅多に出かけることはない。


「そうだな。 セリたちとは西には行ってなかったかな」


祖父は思い出そうと頭をひねる。


 実は運転士とその家族は運賃が無料だったりする。


そのおかげでセリと弟は、祖父には何度も列車に乗せてもらった記憶があった。


南にある潮の匂いの沿岸都市サウス、東には煌びやかな芸術都市イースト。


北のノースは鉱山都市であまり子供向けではなかった。


セリたちは街には下りず、ただ列車の中で母親のお弁当を食べながら風景を楽しんだ。


そしてまた戻って来るだけの無料の旅だが、それはそれで楽しかった。


 西のウエストはどんな都市なんだろうか。


「運転士として何度か行ったが、農業地帯だな」


遥かに続く畑や、広い牧場で放牧された家畜たち。


セントラルで働いて金を貯めた者たちが、最終的にはウエストで土地や農場を買って農家になるという話も多い。


「ふうん」


セリには、あのコガ先輩が農業をしている姿を想像できなかった。




 家が見えて来た


「セリ、あのイコガとかいう若者のことだが」


突然、祖父が声を落として話かけて来た。


「西の端、と言っておっただろう?」


そういえば、先輩は出身地を西とは言わず『西の端』と言った。


「『西の端』というのは、ウエストのまだ先にある」


「えっ」


駅の時刻表にはウエストの先は無い。


「『ウエストエンド』、というのが終着駅じゃ」


「西の端、『ウエストエンド』」


祖父は運転士としても行ったことはないそうだ。


「ウエストで乗り換えで、その先は全く違う列車になる」


セリは祖父の顔をじっと見る。


「『魔の渓谷』という深い谷があってな。 普通の列車では通れないんじゃ」


その深い谷を越えた先に、イコガの故郷ウエストエンドがある。


祖父は「それだけだ」と言って、家に入って行った。


セリはその駅の名前を何度も心の奥で呟いた。




 翌日、セリは学校の昼休みに図書館へ向かった。


ウエストエンドの情報が欲しい。


「地図、ないかな」


国の地図は大まかで、あまり詳しくは表記されていないことが多い。


「『魔の渓谷』はあるのに、ウエストエンドがないわ」


それならばと、ウエストに関する本をパラパラと調べるが良く分からない。


畜産と農業のこと、土地の価格や引退後の生活に関する話が多かった。


チラリと『聖地』という文字が出て来たが、何やら宗教っぽい施設があるということしか分からない。




「何をしてるの?」


セリと仲の良い同級生の女性マミナが声を掛けて来た。


「調べものよ。 なかなか資料が見つからなくて」


マミナは勉強が苦手で、難しいことになるとそれ以上は突っ込んで聞いて来ない。  


「じゃあ、係の人に訊いてみたら?」


「ああ、そうね」


本当は先輩のことはこっそり調べたかったが、何も手掛かりがない。


ここは素直に友人の助言に従うことにした。




 図書館の入り口には学生の勉強を補佐する者が常駐している。


行き詰って困っている生徒を助ける役目だ。


セリは今まで彼らに頼ったことはないが、マミナはしょっちゅうお世話になっているらしい。


「『ウエストエンド』ですか?」


その担当の女性も一緒に探してくれたが、やはり見つけられなかった。


「確か軍部が『魔の渓谷』の詳しい地図を持っていたはずです」


「軍?」


セリは首を傾げる。


ウエストは農業都市だ。 軍との関係は薄い気がした。




 その女性に連れられて学校内にある鍛錬所へ顔を出す。


ここには軍に入るために訓練している脳筋たちがいる。


女性が一人の男性を連れて戻って来た。


「アゼル様」


マミナが真っ赤になって驚いているが、セリはあまり興味はなかった。


 日に焼けた肌と鍛えられた肉体。


それだけだと脳筋だと思われがちだが、金色の髪と深い青の瞳は優し気である。


彼は親が軍の幹部で、自身も将来活躍するであろうと期待されている有望株らしい。


「『ウエストエンド』だって?」


少し考え込んでいたアゼルは、放課後にもう一度話を聞くと約束してくれた。




 アゼルに指定された場所は何故か駅前広場の飲食店の外に置かれた席。


先日、イコガとお茶を飲んだ場所。


さっきから他の席に座っている女生徒たちの視線が痛い。


「ねえ、大丈夫なの?、これ」


隣に座るマミナが心配そうにセリに囁く。


「そんなこと言ったって」


セリにはどうすることも出来ない。


 あれはアゼルの動向を常に見張っている女生徒たちの集団だ。


昼休みの彼の行動からセリたちに会うと聞いて追いかけて来た。


「どうして『ウエストエンド』のことを調べているの?」


元凶は目の前にいる同級生の男性である。


「私の祖父が元運転士で、他の土地は連れて行ってもらったのですが」


チラチラと周りを見ながらセリは話し続ける。


「西にはまだ行ったことがなくて。


それで、聞くとその都市ウエストには、まだ先があるということで興味を持ちまして」


祖父も行ったことがない土地。


セリは好奇心旺盛な目を輝かせている。


「なるほど」


周りを一切気にせず、お茶を飲むアゼルは神経が太いというのか、慣れているというのか。




「実は私もあまり詳しくはないんだ」


無邪気な笑顔を浮かべたアゼル。


セリは驚きとともに呆れていた。


「……失礼します」


来るんじゃなかった、と立ち上がろうとする。


「代わりに、詳しい友人がいるから紹介しようと思ってね」


そろそろ来るはずだと広場の時計を見上げた。


「友人?、まさかー」


セリは思いとどまり、同じように時計を見る。


 列車が到着した気配がした。


駅から徐々に人が吐き出されて来る。


「コーガ、ここだ」


アゼルは友人であるイコガの姿を見つけて手を振った。


驚いた顔の青年が駅の出入り口で立ちすくんでいる。


 アゼルは立ち上がり、イコガの側に駆けて行った。


「あの女性が『ウエストエンド』のことが知りたいというので連れて来た」


そんな話をしているのだろう。


アゼルがこちらを見ながら説明している。


「マミナ、私帰るわ」


セリは立ち去ろうとするがそれは叶わなかった。


今、彼女が姿を消せば、友人を紹介しようとしたアゼルが困る。


アゼルの味方である女生徒たちの威圧によって、セリは身動きが出来なかったのである。


「こんにちは、セリ」


イコガから声をかけられたセリは、今度は彼を慕う女生徒たちから睨まれることになった。



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