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Fly High  作者: 夏目 碧央
16/25

実力を出せたのか

 また都大会トーナメント戦の日がやってきた。今日は難しい相手との試合だ。

「今日勝てばインターハイ出場が見えてくるぞ!気合い入れてけ!」

橋田先生、いつになく熱がこもっている。今日は相手校の体育館での試合。アウェイ感が半端ない。うちの応援もちゃんと来てくれているけれど、相手は私立高校で、強制的に応援団をさせられているのかと思うほど、多くの生徒が観客席にぎっしり詰まっていた。

 今日は柚月さん、来てくれているだろうか。昨日聞いたら、「どうしようかなー」なんてはぐらかしていた。いや、本当に迷っていたのかも。先週は試合前に励ましに来てくれたけれど、今日は一般の人とは会えない構造になっていて、結局柚月さんが来てくれていたとしても、こちらは分からない。スマホは貴重品袋に入れて先生に渡してあるし、もう連絡の取りようもないのだ。

 いや、そんな事を考えている場合ではない。もしこれで負けてしまったら3年生は引退だ。インターハイに行きたい、今年は行けそうだ、先生も部員たちもそう言い続けてきた。

「琉久が入ってくれたおかげだな。」

「今日は頼んだぞ。お前にかかってるんだからな。」

3年生の先輩に言われて、俺は相当プレッシャーを感じていた。口では任せてください、などと言ったけれど、経験の浅い俺なんかが頼りにされても、と弱気になってしまいそうになる。隆二などは青い顔をしている、気がする。

 試合が始まった。両校の応援で審判の笛が聞こえるか心配になるほどだった。やはり相手は強い。スパイクを打たれると取れない。

「ブロック!」

ブロックのタイミングを外させる。思いっきり飛ぶとクイックやフェイントをされる。相手が一枚上手うわてだった。

 結果、3セット先取され、俺たちは負けた。いいところをほとんど出せなかった。俺は緊張して上手くできなかったのだろうか。それとも相手が強かっただけなのだろうか。その答えが知りたくて、俺が実力を発揮できなかったせいではないと思いたくて、悶々としたまま控室を出た。

 チームメイトは皆、無言で控室を出た。3年生は泣いていた。校舎を出て、女子マネージャーたちと合流したが、マネージャーたちも泣いていた。ユニフォームを渡し、マネージャーたちの肩を軽く叩いて励ましている部員もいた。俺も、何となく真希の肩をポンポンと叩いた。真希は顔を上げて俺を見て、なんと俺の胸に頭をつけて泣いた。戸惑ったけれど、頭をなでなでしてやった。そして、もう一度肩をポンポンと叩き、離れた。

 正門を出ると、そこに柚月さんが壁に寄りかかって立っていた。俺が出てくると、体を起こして俺の前に立った。俺は何か言おうとしたけれど、のどに何かが引っかかっていて言葉が出なかった。

「帰るぞ。」

柚月さんはそう言って駅の方へ歩き出した。俺も一緒に歩く。無言で駅まで行き、電車に乗り、最寄り駅で一緒に降りた。もう夕方遅く、土曜日なので人通りがほとんどなかった。

「俺。」

俺は立ち止まって、やっと声を出せた。柚月さんも立ち止まって俺を振り返った。

「俺、今日、自分の実力を出せなかったのかな。それとも、相手が強かっただけなのかな。」

柚月さんの目を見てそう言った。視界が少しぼやけた。

「琉久。」

柚月さんは、友人がそうするように、俺の肩を抱いた。

「負けちゃったから、今日はご褒美もらえないんだよね。」

無理に笑ってそう言ったけれど、かえって涙がこぼれてしまった。俺は思わずしゃがみ込んだ。目を両手で覆う。

 そうしたら、手の甲にさらっと髪の毛が当たった感触があって、そして、なんと唇を奪われた。びっくりして目から少し手を離したら、柚月さんの顔がそこに!

 屈んでキスしてくれた柚月さんは、唇を離すと起き上がり、俺の頭をなでなでした。

「ゆ、柚月さん?」

なんで?どして?この間は勝ったご褒美にハグしてくれて、キスはだめで、それで今日は負けちゃったのにキスしてくれるの?

 もしかして、柚月さんは困っている子を放っておけない優しい人だから?俺が気分が悪くて座り込んでいたのを助けてくれた時のように、今またしゃがみ込んで泣いていた俺が可哀そうで、助けてくれたってこと?

「元気出せよ、琉久。また次があるだろ。今日の自分がどうだったのか、ゆっくり考えて今後に活かせよ。」

柚月さんはそう言って優しく笑った。俺は立ち上がり、

「柚月さん!」

と叫ぶように言って、柚月さんをぎゅっと抱きしめた。柚月さんはいつものように放せとは言わず、俺の背中をポンポンしてくれた。

「さあ、帰るぞ。」

「うん。」

俺は柚月さんを離して、歩き始めた。

「手、つないでいい?」

「だめ。」

やっぱりか。調子に乗りました。


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