亀裂
すみません!日付が変わる前に上げたかったのですが、大幅に遅れました。
クラスメイト達の職業は、大きく分けて2つに大別された。いわゆる近接職と遠距離職。セシリア様の言うことを鵜呑みにするならば、こちらの世界でまれに存在している職業持ちも、この2つに大別されるらしい。
近接職は、僕含め大半が「剣士」だった。クラス42人のうち、18人がそれだというのだから、モブ感に拍車がかかっている。いや、言わないけど。でも、「剣士」のだれもがそれをわかっているのか、微妙そうな表情をしている。
他の近接職として、「双剣士」と「拳闘士」等が数名。レアってやつだ。羨ましくなんてないぞ。寺岡含めた彼らは、なんだかこっちをかわいそうなものを見る目で見てきていた。なんだよ。
遠距離職は、「魔法士」と「魔導士」が大半を占めていた。と言っても、「火魔法士」や「地魔導士」というように、使う魔法の種類が頭につくので、僕たちほどモブ感がない。
こちらは珍しいものとして、「炎術士」と「弓術士」が1人ずついた。どちらもクラスでも、男子人気の高い女子だった。神様は顔で贔屓でもするのだろうか。
そして、その2つの区分けのどちらにも属さない奴もいる。言うまでもなく、神代もその一人だ。
「聖騎士」は、セシリア様が言ったように近・遠距離両方に対応できる万能職ってやつだ。さらには回復魔法まで使えるらしい。まさにオールラウンダー。
自ら何かしたわけでもなく、知らない間に神様から与えられた職業。それを才能と呼ばずしてなんと呼ぼう。そんなもので、まるで出来の違いを見せつけるような神代に、苛立ちにも似た感情が募った。……分かってるさ、これは八つ当たりだ。
やり場のない感情を、ため息と一緒に吐き出していると、下品な笑い声が耳を打った。
「ぎゃはは、お前、料理人って」
「……」
「何するんだよ、俺たちのためにお弁当作ってくれんの?」
神代とは違う意味でクラス内で目立っている連中が、津川雄也を囲むようにしてあざ笑っていた。津川はいつものようにうつむいて何も言わない。小柄なその体が、大柄な連中に囲まれているせいで、ますます小さく見える。
それを見るクラスメイトの反応は薄かった。僕含め大半のクラスメイトは、不快感は感じているものの、正直な話、関わりたくないという反応。下手な同情でこっちにまで飛び火してきたらたまらないからな。
少々正義感が強い寺岡は睨むように大柄な連中を見つめ、正義感の塊のような神代は目を細めて彼らの方へ向かい始めた。椎名は相変わらず腕組みしたままで、うっとおしそうにそいつらを睥睨していた。虐められる方にも問題がある、とか素で思ってそうだな、あいつ。そしてクラスのマドンナ、霧崎茜は心配そうに津川を見ていた。
さまざまな反応を見せるクラスメイト達をぐるりと見渡して、僕はひとり、戦慄していた。――な、何たるテンプレ。
にしても――。僕は神代の乱入を弱った顔で見ている津川に目を向けた。料理人ねえ。
先ほどの2つの区分けに属さない人たちだが、全員が全員、神代みたいにチートじみた職業を持っているわけではない。むしろおかしいのはあいつくらいだ。
では、彼らがどのような職業を持っているのかというと、これもだいたい2つに分けられる。
一つは、戦闘の補助とかサポートに向いてそうな職業。代表的なのは「治療術士」が数人といったところか。あと、珍しいところだと「調教師」とかいた。魔獣なんかを手なずけて使役できるらしい。……てか、魔獣とかいるんだな。今更ながらファンタジーの世界に来た実感が増す。
そしてもう一つが、津川の料理人のような生産職だった。他には「鍛冶師」のやつもいる。こちらは数が少なく、津川と「鍛冶師」持ちの二人だけだ。正直、前線に出なくて良さそうなところも含めて「剣士」よりもよほど当たりのような気がするが、価値観は人それぞれだ。
さて、僕がなぜ全員の職業を把握しているかというと――
「はい、あなたの職業は?」
「火魔法士です」
「火魔法に精通した職業ですね。私たちをその力で救ってくれることに期待しています」
「は、はい。任せてください!」
セシリア様に正面で微笑まれた男子生徒が、顔を真っ赤にさせてうなづく。魔法なんか使わなくても、顔から火が出せそうだった。
現在、セシリア様主導のもと、神代が音頭を取っての職業確認作業が行われていた。これから戦場に出ていく以上、僕らを管理する立場にあるセシリア様が僕らのことを把握するのは当然と言える。さらに、彼女はこの日のためにさまざまな職業についての知識を頭に入れてきてくれていたので、僕らにとっても自らに与えられた力を把握することができるいい機会だった。
セシリア様によると、職業というのは才能にブーストをかけるような代物らしい。その職業を持っている人間にしか使えない技なりなんなりがあるわけではない。
たとえば「剣士」。職業を持っていない人でも、当然剣を振ることはできるし、訓練を重ねればその扱いに習熟していく。でも、職業持ちとそうでない人では、その習熟の速度に大きく違いが出るという。
職業というのは、あなたにはその才能が有りますよ、と教えてくれるものなのだ。当然、何もせずに日々だらだらと過ごしていれば、その才能は開花しない。
つまりここには35人のさまざまな分野の天才が、まだ才能を開花させてない状態でいるに等しい。それを聞いたとき、クラスメイト達は当てが外れたような顔をしていたが、僕はむしろ満足だった。努力、大いに結構じゃないか。それに、自分に何の才能があるのかもわからないのに「あなたにもきっと、何かの才能はあるから」なんて無責任に言われる僕らの世界より、よほど親切設計だ。
わかりやすいチートなんていらない。自分で積み重ねたものだけでいい。
そんなことを考えながら、何をするでもなくぼんやりとしているうちに、クラスメイトの職業確認作業はほぼ終わっていた。近接・遠距離・その他の3つに大別された僕らは、なんとなく自分と同じグループに分けられた連中で集まって、確認作業の終わりを待っていた。
「さて、後は……」
神代が、一息ついた後、視線を最後の一人に向ける。当然のごとく、最後まで残っていたのは椎名だった。
「椎名。お前の職業は?」
椎名は神代の問いには答えず、ずかずかとセシリア様の前に歩いてくる。先ほどのやり取りで苦手意識でも芽生えたのかセシリア様は若干腰が引き気味だったが、椎名は知ったこっちゃないといった風だった。
「もう一度聞く、今帰る方法はないのだな」
「は、はい」
「……そうか」
椎名は静かに言うと、軽く息を吐いた。そしてそのまま、くるりと踵を返して、セシリア様の前から去っていく。
「お、おい!お前の職業は?」
「言う必要がない」
は?……世界が止まったかと思った。だが、もちろん世界が止まったわけでもなく、わけのわからない事態に僕の脳が停止しただけだった。今多分、僕はすごい変な顔してる気がする。
だが、クラスメイトのほとんどが僕と同じ心境だったらしい。誰もが口を半開きにして、椎名のことを見ていた。その視線に、椎名は不快そうに眉をしかめる。
「なんだ、何か問題でもあるのか?」
「……問題って、いや、何言ってんだお前?」
再起動を果たした神代が、わけのわからないものを見るような目で椎名を見ていた。椎名はそれを意に介さず、淡々という。
「お前らは、そこの王女を信じて自分の情報を与えた。俺は信じてないから、わざわざ話す必要を感じない。それだけだ」
「な、何かご不快だったでしょうか?」
セシリア様がおずおずとそう聞き返すと、椎名はそれに視線もむけずに鼻を鳴らした。
「何もかもが不快だ。まず、無理やり呼び出すというのが気に食わん。その上自分のために戦ってください?ふざけるな」
椎名は淡々とそう言うと、そこで初めて視線をセシリア様に向けた。傍目でわかるほど、冷たい視線だった。
「わるいが、あんたたちには協力できない。方法がないのならば、帰せとは言わない。ただ、俺は俺で好きにやらせてもらう。あんたらの指図を受ける気はない」
「し、しかし……!」
そんなこと、できるわけがない。僕はあっけにとられながらもそう思ったが、何事が言い募ろうとしたセシリア様に、椎名は近づきざまに耳元で何事か囁いた。セシリア様はその眼を驚愕に見開くと、やがて小さくうなずくのだった。
「わ、わかりました。こちらから、あなたには干渉いたしません。……急に及びたてして申し訳ありませんでした」
「今更謝られてもな」
椎名は視線の温度をますます下げて言う。僕はまさに、空いた口がふさがらない思いだった。すげえ、あいつ王女様を脅しやがった。何言ったかは、知らないけど。
しかし、椎名ってあんな性格だったんだな。授業中はたいてい寝てるか本を読んでいる奴で、放課後も誰と話すこともなくさっさと帰っていたから、今まで気づかなかった。ただ、只者ではない雰囲気は学校にいた時からあった。
孤高っていうのかな。僕たち凡人とは、世界の見え方が違っているようなそんな雰囲気を、その姿から何となく感じていた。授業は全く聞いてる風じゃないのに、テストではいつも満点に近い点数をたたき出していたのも、そう感じる一因だったかもしれない。こちとら、必死にテスト勉強してたっていうのに、なんだか馬鹿みたいだ。いや、馬鹿なのか。
僕たち凡人とは一線を画する、そんな存在だった。あいつにとっては、僕なんて雑草みたいなもんだっただろう。
そして、その雑草とは違って、この事態を看過できない男がいた。神代だ。
「椎名!」
「なんだ神代」
怒りに肩を震わせるものと、めんどくさそうにそれを見つめるもの。その二人の放つ空気は、明らかに僕らとは異なるものだった。
「おまえ、自分のこと以外はどうでもいいのかよ!」
「ああ、どうでもいいね。少なくとも、お前やそこの王女様のために俺が働く義理はない」
「クラスメイトだろ!仲間じゃないのか!」
「半分正解だ。俺たちはクラスメイトであって、仲間じゃない。たまたま同じ教室にいただけの人間だ」
水と油。そんな言葉が頭に浮かぶ。目の前の二人は明らかに僕らとは異なっていて、だがしかし、その異なり方が正反対だったために、決して分かり合えない存在だった。会話はどこまでも、平行線をたどる。
何度か、ほとんど意味のないような問答をつづけた後、神代は呆れたように息を吐いた。
「……俺は、お前の言うことは認めない。でもわかった。好きにすればいい。……本当は、お前と仲良くできるんじゃないかと、そう思ってたんだけどな」
「俺は一度も、お前らと仲良くなれるとは思わなかったがな」
椎名はそう言ったが、その声音は先ほどと比べると幾分やわらかいようにも感じた。
「まあ、今までクラスメイトとして世話になった分、礼ぐらい言ってやる。じゃあな」
神代に言うだけ言うと、椎名はこちらには一瞥もくれずに去っていく。僕はそんな後姿を引き留める力も、理由もあるわけなく、ただぼんやりと思った。
――あいつ、城の中で迷子にならないといいけど。
どの程度キャラに名前を与えて動かすか。クラス召喚物ってそこが難しいところだと思うんですよね。
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