1話『私は私になりました。』
私はアオイ・マツボシ、宙歴0082年生まれの10歳である。
そして、私は村上しおり、西暦1993年生まれの享年24歳である。
アオイとして生まれた私は、記憶を封印された状態で10年を過ごし、今ようやく記憶を取り戻した所である。
「………………はい?」
地球人類が宇宙にコロニーを作って生活を始めたのが宙歴0001年、私は宇宙コロニー『ニュージャパン』に生まれた日本系宇宙移民三世である。父も母も移民二世の、純粋な宇宙生まれ宇宙育ちである。
…………なんでやねん!異世界転生言うたら剣と魔法のファンタジーちゃうんかいボケぇ!!なんで未来のSF的世界やねん!しかもコロニーに宙歴ってなんやねん!ガン〇ムか!ガ〇ダムのパクリかボケコラ!!
「ほら、アオイ見てご覧、あれがお父さんの乗ってるロボットよ」
「すごーい!」
すごーい、すごーいけどね!マジで二足歩行ロボット!?え?すごい!なにその未来技術?!
「おっきいねぇ~『ゼゼム』っていうんだって」
「学校で習ったよ」
「そうだっけ?」
「もう、お母さんの方が忘れててどうするの?!」
アオイの母はかなりぽわぽわしている。警備部所属の軍人である父とは真逆の性格だ。
コロニー連合軍正式採用量産機『ゼゼム』
モーションキャプチャ式コントロールシステムにより、反応速度を高めた内骨格式MG
と、社会の教科書とかアオイ父の持ってたミリオタ向けの本に書いてあった。
この世界では、ああいうロボットの事をメタルギガント、MGと呼ぶらしい。内骨格式とかモーションキャプチャ式というのはよくわからないけど、自分が動いたらロボットも同じ様に動く仕組みらしい。
「あ、こっちに手を振った、あれがお父さんかな?」
「たぶん」
でっけー、前世では10mクラスのロボットを40mクラスのと比較してちっちゃいって言ってたけど、やっぱでけぇわこれ。
と、ここまで流していたけど、私は今、母親と一緒に父親の仕事場を見に来ている……というわけではなく、他所のコロニーへの移住船に乗って、父親を残して旅立とうとしている。
なぜかと言うと……
「見てアオイ、大きな光がついたり消えたりしてるねぇ……」
「わぁ、彗星かな?……じゃないよ!地球軍そこまで来てるじゃん!!お母さんあれ戦火!戦火の光だから!」
「まぁ、大変」
そう、コロニー連合と地球は、目下戦争中である。
警備部とはいえ、軍人である父は残らねばならないわけで……たぶんダメなんだろうなぁと思いながら、遠ざかるコロニーを眺めていた。
NC-26S『ゼゼム』
ナガオキカンパニー製造の量産型第二世代MG。
これまでは、外殻装甲によって機体を支えていた状況を一変、内骨格で機体を支える事により、広い可動域と軽量化を成し遂げた。
内骨格部分のメンテナンス性は悪化したものの、無駄な構造が不要になった外殻装甲は可能な限り簡略化され、交換が容易となった。
特殊スーツとモーションキャプチャを用いた操作法は、機体をまるで自分の手足のように動かすことを可能にした一方で、宇宙空間における四肢を用いた姿勢制御を難しくし、動作に極めて僅かなラグが発生するようになった。
今までとは全く異なる上にパイロットの技量に左右される操作方法のため、未だに第一世代のテンプレート動作型MGが広く配備されているのが実態である。