6/9
#6
「知ってる」
少し間を空けて、名津はまた短く言った。
流石、歩夢記。
こんなに有名な選手にも名前を覚えてもらってる、…のに。
私なんて…。
「2人とも知ってる」
名津は呟くように言った。
2人!?歩夢記と私のことを言ってるのだろうか。
私は中学時代は全く試合に出てない。
一応、補欠ではあったけれど、一度も試合に出たことはない。
個人戦も無論、ない。
なんで?
なんで知ってるの?
頭の中がぐるぐる回っていたので、多分阿呆みたいな顔してたんだろう。
「うっ!?」
歩夢記に下顎を掴まれて口を閉じさせられた。
「何でそんなことするの」
「しっ!稽古中!!」
思わず恥ずかしくなって、下を向いてしまった。
名津が声を抑えて笑っていた。
嫌な人なんだろうな、この人…。