#5
低く、強く、真っ直ぐな声だった。
道場にいる全員がいっせいに声のした方を向く。
そして、全員が驚いた。
背の高い男子生徒が立っていた。
「名津…」
歩夢記が呟くように言った。
男子の名前は、名津優志郎、強豪選手に疎い私でも知っている。同じ日本人とは思えないほど背が高く、手足が長い。強豪校の紫熊中の剣道部で、県新人個人戦は二年連続優勝。全ての全中出場。中1の時から団体戦のレギュラーメンバーで、入学してから引退するまでの団体戦、名津のおかげで優勝できたと言っても過言ではない。もちろん、中1の時から強化指定選手に選ばれている。
こんなに強い選手が、何故、永紅高校にいるのか?
道場に、長い沈黙が流れた。
「見学してもいいですか?」
名津は顔ひとつ歪めず言う。
「いいよっ、どうぞどうぞ!」
澤西先輩が名津を私たちがいるところに連れてきて、座らせた。
「体操始めます!」
剣道部はいそいそと稽古を始めたけど、竹刀を振っている姿は、どことなく心が他所を向いているように見えた。
「紫熊中の名津君だよね?俺は永紅中の瀬河。よろしくな」
歩夢記が笑顔で挨拶をした。
「ああ」
名津は短く返事をした。