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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2007年6月

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98/307

ひょっこり股間と友恵の部屋

 しとしと滴る雨に打たれ、女の肩を抱く僕。転倒しそうになった女に手を差し伸べた結果だけれど。


「友恵だったのか」


「知らない人に襲われたと思った?」


 抱きしめながら会話を続けている自分に気付き、僕は友恵を解放した。


「ここみたいな思わぬところにひょっこり現れるのは美空で、目隠ししてくるのは友恵だけど、美空にしては背に当たった胸の感触が大きい、というか友恵っぽいと思って。でも友恵がこんな場所に現れるとも思えず、知らない人に襲われたという結論に至りました」


 昨夏、箱根で温泉から上がったときにもたれかかってきた美空の胸の感触を僕はまだ覚えている。友恵の感触はたまにこうして目隠ししてくるのですっかり身に染みている。


「真幸は知らない人に‘マンチョー’するんだ」


「あくまでも防衛のためにね。男だったらタマに柄を引っ掛ける」


「へぇ、でも、きょうは美空ちゃんじゃなくて真幸のアソコがひょっこり顔を出してるね。防衛のためのマンチョーなのにおかしいなぁ」


 友恵は北海道の某もっこりしたキャラクターのようなイヤらしい笑みを浮かべ、僕の隆起した股間をガン見している。きゃあ、やめて、恥ずかしい!


「これは男の性というか、攻撃した相手によってはひょっこりするわけで……。それより、せっかく5時間授業の水曜日なのに、原稿やらなくていいの?」


「〆切間近だからこそ出かけてアイディアを湧かすんじゃないか。引き籠ってたら百パーセントの実力は出せないよ。真幸もインスピレーションを得るために来たんでしょ」


「うん、でも湧いてこない。けっこういい場所なのになぁ」


 僕らは川縁かわべりを下り、バス停の方向に歩き出した。アスファルトで舗装された、畑を貫く碁盤の目状の道。


 友恵は傘を持っているのに、閉じたまま僕に身を寄せている。無意味な相合傘。いや、たまに軽トラックが通るからこのほうが幅を取らず安全か。


 一人分の幅しかない歩道を歩き、バス停に到着した。道路を挟んで正面には高いブロック塀を隔て民家があり、僕らの背後にはプラスチック製の質素なベンチがある。雨天で濡れているから座らない。その後ろは背丈にも及ばない塀と、民家の庭がある。


「あ、バス行ったばっかじゃん。次は45分後」


 友恵がポールに差し込まれた時刻表を指でなぞり言った。


「ここからちょっと歩いて今宿循環いまじゅくじゅんかんに乗るか、けっこう歩いて国道1号線(イチコク)に出ればたくさん来るよ」


「道、わかるの?」


「小6のときに、やっぱりバスがなくて寒川の西一之宮にしいちのみやから勘で茅ヶ崎駅まで歩いたよ。この辺りも通った気がする。あ、そうだ、小出川を辿ればイチコクに出るよ」


「そういえばそうだね。距離はどれくらい?」


「さぁ」


「やめとこうか。水たまりでローファーが汚れる」


「うん」


 待つと決めたとき、反対方向へ向かうバスが来て、数人の老婆を降ろした。このバスが終点まで行って折り返してくるのだろう。


 左のウインカーを点滅させていたバスが右の点滅にシフトし、発車した。対向車線に自動車が通過していたので追い越せず詰まっていた自動車がそれに続いた。


「タクシー呼ぶ?」


「その発想はなかった」


 詰まっていた自動車の一台にタクシーがいた。僕のように稼ぎゼロの人間には到底至らない発想だ。


「もしもし、南野という者ですが、番場ばんばのバス停から茅ヶ崎駅まで一台お願いいたします。……あ、5分で来れますか。わかりました、ありがとうございます」


 一拍置いて、友恵は終話ボタンを押した。


「たぶんさっきのタクシーだね」


 友恵はニッと笑い、僕の視線を捉えて言った。僕は思わず右下に目を逸らし、濡れたベンチの座面を見た。視線を戻す途中には、緩めた胸元のリボンとはだけた夏服、透けた下着。ふくらみは中1のころよりいくらか成長していると改めて思った。


「うん、友恵、言葉遣いが丁寧だね。僕なんか電話予約する度胸がないよ」


「慣れだよ。言葉遣いは企業からの返信文で学習した」


「そうなんだ、やっぱり遠い存在だな」


「なんで? 腕と腕が触れ合ってるじゃん」


「でも、別世界の人だよ。実はバス停に着いてからの数分で物語が浮かんだんだけど、友恵の漫画には到底及ばない」


「え、浮かんだんだ! 凄いじゃん! 聞かせて聞かせて!」


 降雨の静けさに響く近所迷惑なほどの声。


 このときにタクシーが来たので、物語の話は降りてからすることにした。友恵に聞かせるのさえ恥ずかしいのに、ドライバーのおじさんに聞かれるのはもっと恥ずかしい。


 タクシーに乗るとびっくりするほど早く駅に着いた。コンフォートのなめらかな走りがより一層そう感じさせたのだろう。降車場から歩道に降り立ち、駅のコンコースに続く少し長い上りエスカレーターに乗った。正面を向くと一段空けて前に立つ友恵のスカートや健康的な脚が視界に入るので、手すりの青いベルトをまじまじと見た。エスカレーターではベルトにしっかりつかまろう。


 そして僕はなぜか15分後、友恵の部屋にいた。


 古き良き日本の八百屋。店先にはお父さんがいて、その奥の居間では綺麗なお母さんが夕方のニュースを見ていた。挨拶ではもちろんキョドリ、噛んだ。「なんだ彼氏か!」と怒ってはいないけれど威勢良く言うお父さんが怖かった。店頭の上に友恵の部屋がある。なお、僕は友恵の彼氏ではない。


 現代の建物とは異なり、少し大きな声を発したら家中に響き渡る。間違いは犯せない。


 部屋の中央に質素な正方形のテーブル、南西の角に学習机、その後ろ、南の窓際に掛布団がだらしなく剥がれたベッドがある。窓のない東側は本棚、壁を隔てた隣は空き部屋だという。


 僕はテーブルの南側に腰を下ろし、出された麦茶を一気飲みした。


「ねえ、聞かせてよ、真幸の物語!」


 友恵が西側に腰を下ろす過程で谷間がちらり覗けた。


 プロの漫画家にパッと浮かんだだけの自信なき物語を述べるのは頭と胸が詰まるけれど、現状僕の実力ではこれ以上の物語が浮かばず、ここらでコマを進めなければいつまでも前進できそうにないので、腹を括って話してみる。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 昨日放送の『ヒルナンデス!』で本作の舞台、茅ヶ崎が登場しました。

 その中の香川屋分店は本作にも登場、友恵と美空が食べたメンチカツと、真幸が食べたサザンコロッケが紹介されました。


 また、ちらっと映っていた『茶山さざん』というお茶を扱っている小林園の店主さんは、くきはさんのキャラクター、てまりちゃん(お茶つながり)を褒めていました。


 茅ヶ崎はお茶、カフェが盛んな街でもありますので、お茶関連の物語×茅ヶ崎の展開は望ましいところです。


 他にもいくつかお店が登場しましたが、すべて本作に描いているエリア内となっております。


 個人的には短時間に知人が全国ネットで続々流れるなんて珍しいとも思いました笑。


 ではまた次回!


 

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