文化部発表会
新章突入です!
月曜日、学校の講堂は全方位に暗幕がかかっていて暗闇と化していた。聴衆スペース、体育館でいうところのバスケコートがあるところには一年生全員分の折り畳み椅子が並べられ、僕は会話したことないどころか名も知らぬクラスメイトの男女に挟まれていた。男女縦2列ずつの形成で、僕は男子列左側になった。途中で気分が悪くなっても脱出し難い位置だ。
どうせあれだろ? 君たち近いうち中身スカスカのくせに外見ばっか気にして身の丈に合わない服やバッグを買ったり髪をワックスでベタベタにしたり、根性が歪んで目尻や口角が奇妙に吊り上がったりしてくるんだろ?
うち何名かはケータイ操作したり音楽聴きながらチャリ乗って取り返しのつかない事故を起こすんだろ?
と、過去の事例が今後も繰り返されそうだと近い将来を悲観した。
とにかく僕は、現在の両サイドに人がいる状況がとても嫌いだ。電車やバスに乗っているときだって、できれば隣には一部例外(多忙なオネエキャラのイラストレーターとか絵本作家志望の変な子とか漫画家の処女ビッチとか某人気声優ほか数名)を除き誰も座ってほしくない。
その一部の面子と創作取材に行ったピクチャードラマは少しずつイメージが浮かんできている。
里山公園、大庭城址公園、三郎や美空の作風、友恵と長沼さんの人柄。
みんな個性的だから、物語をつくりやすい。
しかし登場人物の設定はまだ決まっていない。ただ一人、大庭城址公園の一角にあるバラ園が呼び起こされ、お嬢さま然としたおしとやかな女の子が浮かんだ。
午後のティータイム、白い丸テーブルの中心にバスケットに詰めたスコーンをお供にダージリンを楽しむ、そんな穏やかな光景。
「これから、文化部による活動紹介を始めます。まず始めに、ブラスバンド部の皆さんの発表です」
ステージの隅に立つ放送委員らしき地味な女生徒がワイヤレスマイクを持って一年生に向けてアナウンスすると暗幕が自動で開き、両サイドへ収縮した。
ステージ上には金管楽器を構え椅子に座っている男女がずらり。顧問だろうか。20から30代くらいの男性指揮者もいる。
客席からは部活動とは無関係な私語がちらほら聞こえ鬱陶しい。
誰かの悪口、人気のバラエティー番組、全国から生徒が集まる学校ならではの聞き慣れない地名。飛び交った地名のうち田子の浦、三島、津田沼、船橋は知っていたけれど、恐らく地名と思われるウノケ、ハクイ、コヅルシンデン、タガジョウはどこなのか見当がつかなかった。他県の地名が飛び交う中、浜須賀や湘洋といった近隣の地域名も飛び交っていた。
生徒の私語が落ち着かぬうち、吹奏楽部の演奏が始まった。曲は某国民的海賊アニメの初代オープニング曲。
想像以上の音量に耳が痛むけれど、乱れのない演奏に床が鳴り、冒険心に満ちた曲調がクソみたいな連中の中に埋められた心を掬い上げられ、躍らされる。
そんな中でも、一部の連中は相変わらず私語が止まない。
演奏が終わると拍手喝采。人気曲ということもあってか、思春期真っ盛りの少年少女の心を掴んだようだ。
続いて文芸部や手芸部の発表があったけれど、それはまぁ、パチパチパチと社交辞令丸出しのまばらな拍手だった。文集を制作しているとか毛糸やビーズで小物を作っているとか、部の活動内容を説明しているだけだったので仕方ないだろう。文芸部には朗読をしてほしかった。
その他、天文学部、生物部、理化学研究部、マリン部(海で釣りや魚捕りをする部)、ボランティア部(この学校のボランティア部はゴミ拾いや福祉施設の訪問、地域活動のなど、決して他の部活や教員の雑用ではなく名の通りボランティア活動をしているらしい)の紹介があった。
「続いては、軽音楽部によるバンド演奏です。準備ができるまで、しばらくお待ちください」
件の地味な女生徒が袖口からひょこっと出てきてアナウンス。彼女は部の発表の合間に毎回登場する。幕も毎回閉じる。
バンド演奏という学校らしからぬ響きに、結構な数の一年生が騒然とし始めた。中学までにはなかった部活だろう。それに何より、バンドといえば憧れの象徴。あんなカッコイイ曲を演奏してみたい、泣ける歌を歌ってみたい、そこまでは思わなくても、音楽番組やポータブルプレイヤーでポップミュージックを聴く機会は多い。この湘南海岸学院では、運動部を含む他のどこよりも圧倒的な人気を誇る、最強のクラブ。それが、軽音楽部だ。




