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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2007年4月 高校生編

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最高の物語を、最高の絵で

 帰りたくない。そう思ったって15歳の私は帰らなきゃいけない。


 他所の街には全寮制の学校もあるけど、生活拠点は茅ヶ崎に置いておきたいし、家はいやだけど商店街の人たちや愛すべき友の存在はかけがえない。


 夜中。いま何時? 壁掛け時計を見る。1時だ。


「あーきっついなぁ、アシさん雇いたいなぁ」


 そんなことしたら母親に怒られるっていうか、毎日グチグチ言われるんだろうけど。


 だからたまに三郎の家にこっそり原稿を持ち込んで手伝ってもらっている。


 代金は払ってるけど三郎だって忙しくて、近所に住んでいても学校以外ではあまり会えない。


 〆切までまだ余裕のある原稿の下書き(ネーム)の制作途中。この段階でキャラクターは鉛筆描きの棒人間だけど、コマ割り、思い浮かんだシーンや台詞の取捨選択をする大事な工程。


 余裕をぶちかましてるといつの間にか時間がなくなって、仮に実作業上のトラブルは発生しなくても外的要因、例えば体調不良(私は生理痛が多い)、対人トラブルで捗らなくなるなんてことも往々にしてある。


 ま、フツーにサボるときもあるけどね。


 好きで始めた漫画家の仕事なのに、ストイックになれないときが私にはよくある。


 メンタルが弱い。


 そう言われたらそれまでだけど、原因は主に周囲にいる人間の影響。親や同じクラスの人とか、接する機会、目にする機会が多い人ほど影響を及ぼす。


 その最たる人物が、私にとっては親。


 我が南野家は商店街で八百屋を営んでいて、お父さんが二代目。


 創業当時は商売繁盛だったらしいけど、スーパーマーケットの登場で客足は遠退き、私が生まれる前から八百屋だけでは生活が苦しいとお父さんから聞かされている。


 お母さんはパート従業員として老人ホームで働いてるけど薄給ハードワーク、職場の雰囲気も多忙でギスギスしているだけではなく、職員同士や入居者同士、または相互の陰口や入居者の横柄な振る舞いがストレスを生み、家では愚痴を漏らしてばかり。


 育ててもらった恩あれど、これはつらい。気が重くなる。


 漫画家っていう不安定な仕事も反対されてるし、ある程度の年齢になったらやめろともお母さんからは言われてる。


 一方で八百屋。この商売を黒字で続ける方法はあると思う。うちのやり方にどこか問題がある。


 実際、茅ヶ崎には多くの商店があって、香川屋は主にメンチカツ目当てのお客さんが引っ切りなしに来るし、近所にあるお茶屋の小林こばやしさんはよく出張していて店先不在の日が珍しくない。店番は奥さんがしている。


 学習机の椅子から立って回れ左、ベッド横の凹んだ壁が視界に入った。心が居場所を失うとからだは正直に反応するようで、うなされて壁を蹴って目覚める朝方も少なくない。


 マイナスオーラが充満する家庭に育った私が明るくいられるのは、たまになら会って話せる商店街の人たちや、三郎と、毎月買ってる漫画雑誌のおかげ。


 周囲に影響されず、自分を強く持とう。


 言うのは簡単、するのは結構むずかしい。


 でも正負の局面を知ってるか知らないかで表現の幅が変わってくる。作品やキャラクターに深みが出てくる。


 影響されて、実際に自分が色んな立場や心持ちの人になってみて、表面上の薄っぺらいテンプレートじゃない本当のところがわかる。


 いま前向きに頑張ってる人だって過去には愚痴をこぼしまくってたり、逆に後ろ向きな人は過去に前向きだったり。


 じゃあどうしてそうなる?


 私のキャラクターづくりはそこから始まる。


 例えば私のデビュー作『自殺』。小学生の女児が自殺に至る過程を描いた漫画で、その年代で自殺というのは衝撃的過ぎるという理由で映像化はされなかったけど、何年かは働かなくても暮らせるくらい売れた。


 潜在的需要があったのだ。


 それが意味するのは、日本の闇か平和か。


 共感してもらえてるのなら闇を抱えた人が多く、興味本位で残酷な描写を求め読んでくれたなら、読者のこれまでの人生で自殺ほどショッキングな局面に直面せず、刺激が欲しかったとも考えられる。


 その単行本コミックスを当時友だちになりたてだった真幸にあげたときは、重圧と気恥ずかしさが胸や頭の中で入り交じった。

 

 いやぁ、あれはハードル高いでしょ。


 だって、真幸にとって私はラブホ勧誘マシンで夜な夜な下のほうをびしょびしょにしてるイメージしかないだろうに、それがあんなの描いたなんて鳥肌もんだよ。


 不安要素はそれだけじゃない。漫画は絵の腕前、画力も大事。


 商品として出せる絵は描いてるつもりだけど、調子が鈍ってアンバランスな構図になったり、表紙とかカラーページは色遣いも。人間を描くときは特に両目の間隔、口中の色、脚の形状に気を遣う。


 これができないとアンバランスになるだけじゃなくて、例えばキャラクターが心からやさしい笑みを浮かべていたとしても引きって見えたり、悪巧みをしているように見えたり、腑抜けて見えたり、生気が宿ってなかったり、心情と表情が一致しなくなってしまう。


 最高の物語を、最高の絵で___。


 こう言うとなんだか職人っぽい。


 まだ私は駆け出しの漫画家で、半人前どころか何分の一人前かもわからないけど、自分の経験と想像を搔き集めて調合して、ときにふと天から降りてきたような不思議な感覚から生まれるものをぶち込んで、それを受け取った人がいい気分になったり、何かを考えるきっかけになったらいいなって思う。


 それと最近、新しい楽しみができた。


 真幸と美空ちゃんがクリエイターとして本格的に活動を開始するという。


『夢は人を巻き込んで叶えてゆくもの』


 前向きな大人たちは口を揃えて言う。


 なら私も二人を巻き込んで、ときに二人に巻き込まれちゃえばいい。


 そうした結果、どんなものが生まれるのか。まだ合作の約束さえしてないけど、いつかそれを送り出したとき、お客さんたちはどんな反応をするのかな?


 それがいまから楽しみだ。

 お読みいただき誠にありがとうございます。病み上りですm(__)m


 そんな中、昨日はギリギリ体調回復で朝から横須賀シーサイドマラソン(ハイスクール・フリートRun)に参加。こちらには横須賀が舞台のアニメ『ハイスクール・フリート(はいふり)』の信田ユウ監督も参加されました。


 それから別件で埼玉日帰りとハードな1日でしたが、走って肌がツヤツヤになり、創作的な刺激も受けて良い1日となりました。


 発熱、マラソンなどにより老廃物を出したところで、また気持ち新たに創作をしようと思います(*´ー`*)

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