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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2007年2月

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62/307

突き刺す風とホットレモネード

 寒い、痛い。乾いた風が突き刺す2月の海岸は、ハンドクリームを塗ったばかりの肌をみるみる乾燥させてゆく。頬や耳はズキズキザクザクと尖った氷を突き刺されているかのようで、風邪を引いて発熱しているような感覚だ。


 サザン通りのコンビニで購入したホットレモネードのキャップを開け、はちみつレモンのやさしい味わいと、湯たんぽ代わりのペットポトルで体内や手、頬を温める。


 マフラーやタイツなどでしっかり防寒対策をした私服姿で歩く浜辺は大して寒さを感じないのに、制服だと全身に空気が染みて震え上がる。この辺りの中学生はブレザーよりもずっと通気性の良いジャージで登下校するけれど、彼らはどう命を繋ぎ止めているのだろうか。私だったら凍死してしまう。


 からだが震えて止まないので、連想されたサザンのとある曲を口ずさむ。4分ほどで歌い終えたので、今度は即興詩曲を浮かんだままに放つ。近くを散歩する人までの距離は約70メートル。波風の音で私の声は掻き消される。


「波が囁く渚にひとり、ぽつりとひとり。見上げれば世界を飛び回る飛行機が放った白い直線。その先には沈みゆく太陽。目に見えるものすべて、広い宇宙から見ればちっぽけで、そんな世界で悩んだり悔やんだり、不毛なのに沸き上がるその感情は、私がちっぽけな世界で生きている井の中の蛙だから。だから抜け出すために藻搔く、今。絡んだその水草たちは、未来を保証してくれるのかい?」


 歌い終え、ヘッドランドを通過したのでそろそろ砂浜からアスファルトへ上がろうと海と烏帽子岩に背を向けると、前方100メートル、私がいつもスケッチをしているベンチに紫の一中ジャージを纏ったちっぽけな男の姿が視界に入った。真幸だ。


 これは私の勝手な解釈だけれど、スケッチや写真撮影目的以外にあのベンチに座って夕暮れ時の冷たい風を浴びるというのは、心に何か満たされないものや悩みごとがある場合がほとんどだろう。


 しかも真幸は市内随一の絶景スポットで海や富士山を見るでもなく、ただ俯いている。私なら耐えられないであろう、風通しの良いジャージ姿で。


 こんなときに、チョコを渡していいのかな? もしかしたら大事な人を亡くしたとか、私みたいに作品を燃やされたとか、この突き刺す冷たい物理的な風よりもっともっと、耐え難き痛みを抱えているかもしれないのに。


 戸惑いつつ、私は彼に向ってサクッ、サクッとゆっくり砂を踏みしめ歩を進める。

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