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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2013年1月

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306/307

1曲目『未熟な冒険者』

 暗がりのステージ中央、微小な白いスポットライトに浮かぶ一つの人影。


『僕はどこまで ゆけるだろう』


 澄明で、しかし重厚な歌声がアリーナを支配する。ライブ1曲目は『未熟な冒険者』。夕方アニメ『深海モンスターパシフィックドラゴン』の第5オープニング曲。長沼さんはその主人公、海人かいとを演じた。海人が年齢1ケタから老人になるまでを描いた長編で、3年に亘り放送された。老いた海人の声までも彼女が吹き込み、演技の幅の広さはファンの間で話題を呼んだ。他作品では萌え系の妹キャラも演じているから尚更だ。


 音楽はハイテンポではなく、ヘーイッ、ヘーイッ、ヘーイッと合いの手を入れるにちょうど良い、ウォーミングアップに適した曲ともいえる。凛奈も、ほとんどの客も一体となって会場を温めてゆく。僕はへッ、ヘイッ、ヘイッ、とモゴモゴしている。


 ベテランのバンドマンたちによる重厚で旅情感を孕んだイントロが心の臓を打ち、僕らを一瞬で世界へ引き込んだ歌声の再来を待ち望みつつも、この精緻な音響に浸っていたさに後ろ髪を引かれる。


 そして、歌声と重なる___。


『いつからだろう? 長い旅を経て経験を積んだつもりで


 後進より偉くなった気がして自分を顧みず主観を押しつけるようになったのは


 甚だしい勘違いの先

 もうゴールは近いのか?


 境地へ辿り着いたような気になって

 パラダイムシフト

 ギアが硬くなっていた


 知らぬ間に自他を傷つけて

 それを人道と奢り


 ああいつの間に僕は

 害悪に果てていたのだろう

 正義の味方気取りで』


 ここまでがアニメで流れる89秒。作詞作曲、長沼真央。


 なんとなくだが、彼女が売れてしばらく驕り高ぶっていた時期があり、その自戒の念を込めている気もする。


 絶大な支持を得る彼女もまた、成熟への旅の途中なのだ。


 他方、僕は今生で神へと昇華できるほど徳を積めるだろうかと、この曲を聴いているとそんなことを思う。


 やなせたかしではないが、長沼真央もまた、子ども向けアニメの曲だからこそ、お子様ランチにはしなかったのだろう。

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