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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2013年1月

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302/307

仙台の夜

 石巻から仙台に戻り繁華街の店で名物の牛タンを堪能した後、私たちは宿泊先のビジネスホテルにチェックインした。部屋は個別に割り当てられ、いまは暖色のテーブルランプが灯る薄暗い部屋でひとりの夜を過ごしている。牛タン店周辺の喧騒が嘘のように遮音性に優れた静かな部屋。


 備え付けのポッドで湯を沸かし、サービス品の小袋入り粉末緑茶を備え付けのカップでいただく。


「ふぅ」


 どうしたって、一生忘れ得ぬ石巻の景色を思い出す。


 津波が押し寄せ壊滅した区画、抉られた像や建物。


 人気ひとけはほとんどなかったが、そこには暮らしが有った。いや、現在進行系で有る。


 暮らしとは何か。私自身を振り返る。


 Longtempsロンタンの関係者、私たちの音楽を楽しんでくれるファンの皆さん、街ゆく人々、電車で乗り合わせた人たち、茅ヶ崎の面々、鎌倉清廉女学院時代の面々、ごった返す鎌倉の観光客、サボり目的でボランティア部を立ち上げた者、いつも小説を読んでいる文学少女、吹奏楽部で懸命に活動したものの千葉や京都の強豪校に敗北した者たち、アニメ制作に人生を賭けた者、漫画家、イラストレーター、イラストレーター志望、声優、声優志望、10歳までいっしょに暮らしていた犬のコロ、そのへんのワンちゃん、そのへんのニャンちゃん、インコちゃん、パッと思いつくだけ、身のまわりだけでこれだけの生命、暮らしがある。一人ひとりが過ごした時間、感じた空気、見てきた景色がある。


 街が無くなる、犠牲者が出るということは、そういった生命の一つひとつのすべてをこの世から奪い去る、ということ。


 サイコロを振って旅に出るという北海道のバラエティー番組をパクったような企画で命について考えるなどと、朝の私は思いもしなかった。


 真幸と出会ったばかりのころ、茅ヶ崎の殿山公園から眼下に広がる街を見下ろし、そこへ自分の絵本を広げてゆくんだと意気込んだ。いまはそれに音楽が追加されている。社会の巨大な力により音楽のほうが先に広がったが、どんなに響く曲を届けても自然現象は抑え込めない。


 でも、心に寄り添う生涯のパートナーになればとは思う。あわよくばこれから送り出すつもりの絵本たちも。


 ああ、今夜は眠れそうにない。


 明日の勾当台こうとうだい公園でのミニライブは予定通り決行されるだろう。血行の良くないクマが滲む瞼で、私は歌うだろう。


 私はモーレツ社員でもストイックでもないので、死なない程度にがんばろう。

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