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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2013年1月

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301/307

再びの石巻

 到着したのは石巻いしのまきだった。震災前、茅ヶ崎の面々でも訪れた街だけれど、河川周辺は更地が多く占めている。縦に抉られた家屋、片脚がもげた女神のモニュメント、歩道に面した、玄関と思しき床のタイルだけが残った建物。


 あのころとは、すっかり様変わりしていた。


 1月に真幸が石巻の様子をSNSにアップしていたけれど、被災箇所の写真はなかった。こういった風景を共有する気は起きないということだろう。写真撮影さえはばかられる。


「世界にはこういうところもあるって、生で知ってほしくてね」


 被災風景を見渡す私たちから一歩下がったところで阿波鳴子が言った。


「私、徳島みたいな名前だけど福島出身でね、あそこはまだ危ないから連れて行けないし、石巻なら萬画館まんがかんがあるから楽しめると思ったんだ」


 茅ヶ崎の面々で石巻へ向かう途中、常磐線に乗って福島県の浜通りを縦断した。その一部分が原子力発電所の事故による避難区域となっている。広大な田園地帯から見る夕陽がやけに綺麗だったのを覚えている。


「世界には、喜劇の数だけ悲劇がありますものね」


 俯きつつ、菖蒲沢麗華が言った。


「それって、あ……」


 穂純ちゃんが言い淀んだ。


「ええ、そうですわね」


 穂純ちゃんの言わんとしていることを、私たちは理解した、と思う。


 歌手、絵本作家、その他エンターテイナー。私たちの仕事は人を楽しませ、幸せにすること。


 しかし『喜劇の数だけ悲劇がある』という正負の法則に則った場合、誰かが幸せになれば、そのぶん誰かが不幸になる。


「でも、ずっと不幸だった人を悲劇から救う力はあるんじゃないかな」


 率直に思ったことを、私は言った。


「さすがだね美空ちゃん。Longtempsロンタンはみんな賢い可愛いだけどさ」


「喜劇と悲劇の割合は変わらないけれど、一生不幸なままで生涯を終える人は減らせる。例えばずっといじめられていたり、複雑な環境下で生きてきた人に救いの手をさしのべられる。娯楽とはそういうものであってほしい。これまでも幸せだった人も、芸者の影響の範囲内では幸せであってほしい。わたくしはそう願っております」


 中学時代から変わらず菖蒲沢麗華を正論メッタ刺しクソ女だと思っているけれど、胸の内は抉られた女神像とそう変わらないのではないか。正拳突きでありながらしなやかさを併せ持つ女、菖蒲沢麗華。


 周辺を一通り歩いて回った私たちは萬画館に入り、蔵書を数時間読み漁った。昔の温もりを感じるコンビニを舞台にした萬画が印象的だった。

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