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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2013年1月

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おはようライナー215

 はい、皆さん、こんにちは。私のこと、覚えていらっしゃいますでしょうか、星川美空でございます。


 成り行きで同級生の菖蒲沢麗華と平沼穂純ちゃんと歌手ユニットを組み、地獄のような鍛錬の日々と、たまにスポットライトを浴びて有り難いことに万単位の観衆に見られながら緊張と体力の限界で脚を震わせ歌う日々を送っております。


 歌手なんて、なりたいと思っても滅多になれない職業なのに、なんということでしょう。


 住所は相変わらず茅ヶ崎の実家マンションなので、都内まで電車通勤。最初は通勤ラッシュの湘南新宿ラインで吊り革に手を伸ばしどうにかこうにか掴まって、保土ヶ谷(ほどがや)付近の丘の上や西大井にしおおい駅を通過した後の急カーブで遠心力による攻撃を受けるなどしてイヤになってきました。


 あと、ラッシュアワーにも赤子連れで乗ってくる親もいるもので、赤子に身体を触られるなど不愉快な思いをするなども。なお、赤子以外には触られていない。あの清川真幸は戸塚とつか辺りで中年男に尻を触られたらしいのに。


 まあ良い、触られぬに越したことはない。


 ということで私は『おはようライナー新宿』という追加料金510円かかる座席定員制列車での出勤が常となってきた。千円くらいかかるグリーン車の乗車口では大御所芸能人を見かけたりする。


 きょう乗る列車は茅ケ崎駅3番線ライナー専用ホーム7時34分発。全車2階建て10両編成。このタイプの車両では高みの見物ができる2階席でも、ホームの縁を間近に見る階下席でもなく、なるべくデッキ脇にある8号車フロア席の3人ボックスに座る。車端部とデッキの間にあるその席は、デッキ側は1人掛け。つまり隣に人が座ってこない仕様。ライナー券はほぼ毎日売り切れの満席必至なので進行方向反対になるとはいえこの席の存在は有り難い。なお帰りは逆向きに走るので進行方向側になる。


 おはようライナー新宿は貨物列車用の線路を走るので、横浜や川崎の街外れやトンネルの多い山間部、貨物列車の駅や基地など普通列車ではあまり見ない景色が広がる。最初はそれらを眺めていたりもしたけれど、見慣れてからは居眠りして気付けば鬼のレッスンが待ち受ける朝から仄暗いコンクリートジャングル。


 鎌倉から茅ヶ崎まで約15キロ、湘南の海辺を無理矢理走らされていた私はいま、都内のスタジオという閉鎖空間で息切れする日々を送っている。閉鎖空間なのに歩数計は10000超。思えば鎌倉清廉女学院での刑務は歌手になる伏線だったのだろうか。


 ああ神よ、私は絵本作家になりたい。


 実は歌うのも気持ち良かったりはするけれど。

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