小説家との再会@仙台
聞き覚えのある声がするが、僕はそろそろここを出よう。
新幹線の時間まではまだちょっと余裕があるけど……。
僕は誰とも目を合わさぬよう下を向き、店の出口へ回れ右。
ガシッ。
右肩を掴まれた。
その手は僕を離さぬよう中指を押し当ててくる。ツボに当たってちょっとだけ気持ちいい。肩が凝るなんて、僕も大人になったものだ。
「へぇ、こんなところで会うなんてね」
「どうも、こんばんは」
時沢神楽。同じ大学に通っている藤沢市民。東日本大震災のとき、いっしょにお台場に出かけて帰宅困難を共にした戦友。
なぜ仙台にいる? 学校で仙台に行くなんて話、してなかったじゃん。僕もしてないけど。
「きっ、清川くんっ……! と、神楽ちゃんが、お友だち……?」
ああ、バレた。
人生で唯一、僕に告白してくれた相手に。
「え、ああ、文佳と清川くんも、友だち? 茅ヶ崎だもんね、二人とも」
あああ、血の気が引く……なにこの気まずさ……。
「うん! 清川くんはね、すごく頭が良くて、かっこ良くて、私の憧れ」
うううううう……! 穢れなんて山ほど知っているだろうに素直な笑顔で言ってくれちゃって!
むず痒い! 真逆のことを言われてすごくむず痒い!
ぼく、あれだもん!
高菜明太マヨ牛丼と、チーズ牛丼だいちゅきだもん!
ああ、ああ、ああああああん! すいませんチーズ牛丼に半熟玉子お願いしましゅううう!!
しかし聞かせてやりたい。僕を気持ち悪いとか何考えてるかわからないヤバいヤツとか言ったり思ったりして蔑み嗤うクソ野郎クソ女どもに!! 僕は頭が良くてかっこいいらしいと!!
「へぇ、そうなんだ。ふぅん。それでね、清川くん、私、これから藤沢に帰るの。文佳を連れてね」
「駆け落ち?」
脳内パニックパラダイスだが、返しは冷静。
「ふふふ、清川くん面白い。そういうところも変わってないね」
「変わらないとね、僕も、そろそろ」
しかしまあ西方さん、すっかり綺麗な女性になっちゃって。ウェーブのかかっている黒髪にパッチリした眼、アニメショップより三越前や光のページェントのほうが合う白いコート。元々素材は良いけど、自分の特徴を知った上で活かしたコーデだ。
さて、そろそろ帰る時間だ。帰って22時からのラブラ◯ブをリアタイ視聴する予定がある。新幹線に乗り遅れるわけには行かない。




