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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2013年1月

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再びの東北6

 目の前に広がる被災跡、その感じ方は人それぞれだろう。


 茫然自失になる人もいれば、早く復旧させねばという人もいて、宝を失い悲しみに暮れる人も。


 僕にも感情はあるが、努めて冷静に。


 片側一車線の幹線道路に突き当たった。歩道橋を渡った向こうに学校がある。主桁には、津波の高さを示す看板が取り付けられている。この地点では歩道橋に上がってギリギリ助かったのか。


 これを地元の海岸、茅ヶ崎一中付近に置き換えると、昼間は何百人もいる海岸だが歩道橋に上がれるのはせいぜい50人程度。津波はその高さを超える可能性はあるが、ここで渋滞する可能性は高い。ほかに高い建物といえば学校の屋上だが人もクルマも多く、避難には相当な時間を要すると思われる。


 これはまずいな。


 とぼとぼと歩道橋に上がって道路と街を見下ろしながら、僕はそんなことを思った。


 歩道橋の主桁から引き返し、幹線道路の歩道を歩いていると、赤いスプレーでバッテンマークを付けられた住宅があった。


 これはイヤだな。自分の家にバッテンマーク。極めて不愉快だ。


 過去、清川家には泥棒の下見跡と思われる白いバッテンマークが付けられ、それはそれで大層恐ろしいのだが、この赤いマークは住宅そのものを否定されている感じがするし、実際そうだ。それを可視化したものだ。


 目立った外傷はわからないが、相当なダメージを受けているのだろう。


 更に歩くと、小さなタクシー会社があった。クルマは1台しか留まっていないし、頑張っても2台留められるか否かの面積。2階建てで、1階はシャッターのないガレージ。古い建物で、ここにも津波が押し寄せたのは間違いない。周囲は更地が多く、ぽつり、ぽつりと住宅がある。


 たまに、自転車とすれ違う。


 この一帯を支配する、ざわざわした空気感。


 正直に言う。広島の原爆ドーム前と同じ空気感だ。


 右往左往しながら更に進んで、これ以上進むと戻るのに時間がかかりそうなところで右折。四方とも更地。周りはほぼ更地。


 空気が乾いているなぁ。


 再び十字路に差し掛かると、路面に大量の水が流れている箇所があった。水は透明だ。水道管が補修されていないのだろうか。2年以上も。


 その先に、一軒の頑丈そうな日本家屋が現れた。恐らく昭和時代中期から後期に建てられた高級住宅だ。


 外観はしっかり原型を留めている。


 だが、ガラス戸が全損し、カーテンがふわ~ふわ~と外に靡いている。


 2年以上、ずっとこうなのか。


 僕はここで初めて、口をぎゅっと締め、胸を詰まらせた。


 この家には、生活感が残っている。


 来てしまって、申し訳ない。


 心から、そう感じた。


 観光客が来たほうが地元が潤うとか、経済的理屈は抜きにして。


 被災地を知ってほしい地元住民もいるのも承知のうえで、申し訳ないと感じた。

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