再びの東北4
まず目に留まったのは駅のホーム。津波が押し寄せたのはメディアを通じて知っているが、車内から50メートルほど遠目に見た感じでは『なんとなく廃墟のよう』という印象で、目立った損傷は確認できない。
他方手前のコンビニエンスストアの店内は物が散乱して滅茶苦茶。
ここに津波が来た。
僕は胸を焦がすでも恐怖を覚えるでもなく、事実として淡々と、それを受け入れた。
バスは終点の矢本駅に到着。ここから石巻駅までは鉄道の営業が再開しているので、狭い駅ホームの定員2、3名程度の小さな待合室で列車を待つ。
その間僕は、昨日仙台の映画館で購入したバナナフレーバーのポップコーンをつまんでいた。僕が観たアニメ映画オリジナルのポップコーンで、甘酸っぱい恋の味らしい。
恋かどうかはさておき、バナナ風味の香料と適度な甘酸っぱさはクセになる。
ホーム上に僕以外は誰もおらず、静かな時間が流れる。
虚無……。
見渡す限り、これといった建物のない駅周辺。
被災地を見に来たが、いまはただ、列車が来るまでの静かな時間を満喫しよう。
ポップコーンを食べながらしばらく待っていると『奥の細道』と記された白い車体に緑と赤のラインが引かれた2両編成の気動車がエンジンをブンブン鳴らしながら到着した。
奥の細道といえば、松尾芭蕉の文学作品。以前訪れた福島県の飯坂温泉にはその銅像があった。
車内に入るとロングシート、四人ボックスと二人ボックスがあったので、人見知りの僕は二人ボックスに座った。ほかに乗客いないけど。
数分後に列車が発車。ブーンとエンジン音を轟かせながら、列車は平野をゆったり駆けてゆく。
のどかだなぁ……。
都会の喧騒を忘れ、ぼんやりと車窓を眺めているうち、列車は終点の石巻駅に到着した。




