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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2013年1月

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高ボッチ高原

「アアアアアア……」


 と、中ジョッキのビールを一気に半分飲んで白眼を剥いているのは僕の斜め前に座る声優志望の烏山澄香。


 店は座敷の大宴会場と小上がりがあり、僕らは隅っこの小上がりを陣取った。


「……」


 僕の隣、サングラスをかけたまま、何も言わずビール髭を生やしている美空。怪しい南国サンタクロース。


 宴会場、僕らのスペース通夜の晩。


 人生、なかなか思い通りに行かないと思い知った二十歳の僕ら。しかし美空は過去をこう振り返る。


「鬼の走り込みをさせられた鎌倉での日々は、まさか歌手への伏線だったとは」


 美空たちlongtempsロンタンは事務所入所直後、マイクロバスに乗せられて長野県塩尻(しおじり)市の高ボッチ高原に拉致され、地獄のトレーニングの日々が始まったという。


 高ボッチ高原。高度なボッチが集まる高原ということだろうか。ボッチだらけの高原。それは東京砂漠のように溢れんばかりの人はいても誰も交わらないということか。しかもビル一棟ない空気の澄んだ高原でボッチのスクランブル交差点が発生すると考えると、なんて混沌とした情景なのだろう。


 渋谷のスクランブル交差点は皆それぞれ行き先があるかもしれない。しかし高ボッチ高原のスクランブル交差点は誰一人行き先がなく、ただ彷徨っているだけだ。


「いやあ、私たちも大学に行けば良かったよお」


 高ボッチ高原に関する勝手な想像をしていたら、僕の正面に座る瑠璃が大学の話題を振ったきた。瑠璃と澄香は声優の専門学校に進学した。僕は「そうなの?」と、とりあえず返した。


「実力派の声優さんたち、長沼さんみたいに役者じゃない世界の経験も豊富だったり、清川くんみたいに大学に進学して、20代で事務所立ち上げたり、美空ちゃんみたいに清楚な声もドスの効いた声も自在に出して、歌も広い声域でめちゃくちゃ上手いし、すごい人だらけで、私たちみたいな一本道でまっしぐらだと、先が細かったり……」


「お、おお……。まあ、でも、大学行ったからって成功するとは限らないし、専門学校で一本道を歩んでも、廃業するとは限らないよ」


「そうだよねぇ、結局は自分次第だよねぇ」


「そう、なんといっても僕が成功してないからね」


「清川くんはまだ在学中だから」


「まあ、そうだけどさ」


 専門学校を卒業する前に声優デビューするケースもあるそうで、まだデビューしていない瑠璃と澄香は焦っているのだろう。


 とはいっても、御託を並べたところでどうしようもない。焦りという感情はときに必要だが、自らのレベルなど、現状を踏まえたうえで理路整然と、しかし情熱を胸に進む。それが夢を叶えるための最適解ではないかと僕は思う。


 だがそれを女子に言うのは御法度。瑠璃は賢いから頭では理解しているはず。ただ話を聞いてほしいだけだ。

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