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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2012年1月

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強い杭を打ちたい

 茅ケ崎駅で下車した僕は、暮れ泥む西の空に背を向けて、ホームの階段を上がった。駅構内では『電車の到着遅れまして申し訳ございません』とアナウンスが流れていた。

 

 電車通学を始めてから、人身事故がかなり頻繁に起きていると知った。駅や電車のドア上に流れる運行情報が毎日のように流れてくる。どの地域で事故が多いのかも知った。東海道線沿線より人口が少ない割に事故が多い路線もある。人身事故の原因すべてが自殺ではないだろうが、自ら命を絶つ人の多さを数字として実感している。その無機質さは、情緒で訴えられるよりもある意味残酷だ。


 人身事故、震災、生きづらさ、悲しみの連鎖、喪失感、昔から日本社会に漂っていたものが表面化している、僕はそんな気がする。


 抱えているものは人それぞれ、年代によっても異なる。子どもや学生なら進路、通称イジメや虐待という犯罪などなど。大人なら収入、結婚生活、各世代共通で家族の不仲、介護、貧困、世間体、孤独感……。


 どれもデリケートな問題だから簡単には扱えないが、これからアニメ視聴者の中心は成人のほうが多くなる。僕ら世代が年を重ねてアニメファンを卒業する割合は低いだろう。


 アニメの原作となっている割合が高いライトノベルは、2012年現在こそ学生恋愛や魔族などを描いたタイトルが多いが、十数年経つとメインキャラクターは未成年でありながら、経営戦略や知性をメインにしたタイトルが多く出てくる可能性が高いと僕は見ている。また、時の流れに連れてメインキャラクターの年齢が30歳、40歳と高齢化してゆくとも思われる。


 他方で子ども世代は、僕らが小、中学生だったころより勉強漬けで、夕方やゴールデンタイムのアニメの放映数は減りつつある。そのうち日曜朝のアニメがあの女児向けビッグタイトルのみになってもおかしくない。


 アニメは子どもが見るものから、大人も見るものに変遷している。


 そんなことを考えているうちに、駅南口の幸町さいわいちょう自転車駐車場の屋上に辿り着いた。雨や雪の降っていない日は自宅からここまで自転車で通っている。自転車無法地帯という不名誉な呼び名がある茅ヶ崎だが、僕は交通ルールを遵守している。


 帰宅した僕は、小1から愛用している学習机に向かって大学の講義の復習を始めた。


『これからの時代は、草鞋わらじをたくさん持っているべき。それによって、生活上の安心感を得られる』


 壇上で教授がそう言った。


 僕らの親世代、つまり1960年代前後の世代はどこかに雇われ万年平社員でも健康で文化的かつ多少の贅沢ができる生活ができている人が多い。男一人働けば家族四人くらいは養える。但し組織名を検索して『給料が安い』『ブラック』などと出てくる企業や団体、業界は除くと、そう言っていた。


 だがこれからは違う。2年少し前のリーマンショックによりデフレは加速、政府はデフレ脱却に向けた政策を打ち出しているだろうが、実効性の有無は別の話。仮に景気が回復したとしても、資本主義国家である日本が格差社会であることに変わりはない。


 つまり、個々が頑張るしかない。


 しかし、アニメは儲からない!


 生きる希望を失った僕は、無意識のうちに線路に飛び込むのか……。


 電車に轢かれると物凄く痛いのは車両を見ればわかる。停車直前の歩くような速さでも、当たれば死ぬか、余程運が良くなければ大量出血は必至。だから飛び込もうと思って飛び込みはしないだろう。


 とにかく生きられる方向に持って行こう。


 東日本大震災以降はよく命について考えるが、生きたくても生きられなかった人もいるのに命を粗末にするなとか綺麗事は別問題。世の中には数多の問題がある。天災ばかりが命を脅かすわけではない。心の問題も、歩道をそこそこの速さで走る自転車も、あちらこちらに敵だらけ。


 震災に関する物語の後は、そういう日常のリスクに訴求する物語でも描こうか。まだ随分先の話になりそうだが、そんなことが延々繰り返される世の中に、できるだけ強い杭を打ちたい。

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