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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2012年1月

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Longtemps

 歌声の主は、美空、菖蒲沢さん、平沼さんだ。三人は『Longtempsロンタン』というユニットで、いよいよ歌手デビューする。いわゆるアニソン歌手ではないが、アニメとのタイアップによりプロモーション効果を高める狙いがある。


 ユニット名の『Longtemps』はフランス語で『長い間』という意味で、名の通り長い間聴いてもらえる音楽を世に届けたいという願いが込められているそうだ。


 仲間内で最も近い存在だった美空が、いまや最も遠い存在になった。


 美空とはかれこれ2年間会っていない。一応は芸能人という立場上、異性との接触は極力避けたほうが良いだろうから僕からは誘わないし、そもそも彼女は超多忙。


 ダルメシアンを野生動物と偽装して、ウスバキトンボの絵本を描いて……。出逢ったばかりのあのころが、なんだか妙に愛おしい。


 プライベートアカウントのタイムラインを見られているだけでも、まだマシか。


 粉っぽいビル風がダウンコートを透過して、僕を突き刺す。無数の不純物に曝され霞む目で大型ビジョンを見上げる。


 ロックチューンに乗せて響く三人の高らかな歌声は、渋谷駅前で最も耳を、目を引く存在。


 対して僕はゴミのような人の中に埋もれた不審者。このスクランブル交差点で僕が彼女たちより目立つには、ロケット花火を打ち上げるとか、しょうもないことしか思いつかない。


 青ガエルにもたれ掛かって僕は、しばらく人の流れをぼんやり眺めていた。芸能事務所の社員を名乗るグレーのスーツ姿の若い男にスカウトされ、面倒なのでバイトがあると嘘を吐き、その場を去った。


 いつものように動く歩道を乗り継ぎ湘南新宿ラインに乗車。2号車、ドア脇の二人席はすべて片方埋まっていて、最後部4番ドア後ろの三人席は両端が埋まっていた。しかしなぜか3番ドアと4番ドアの間、山側の四人ボックスはまるごと空いていたので、僕は進行方向側に座った。


 特別快速は恵比寿えびす駅を通過、大崎おおさき駅を出て電車の整備工場脇の急カーブに差し掛かったところで車掌からの放送があった。茅ケ崎の一つ手前、辻堂駅の上り線で人身事故が発生したそうだ。僕が乗っている電車は下りなので、しばらくは進行できるそうだ。行き詰まったらそこで運転見合わせ。


 電車は戸塚駅から速度を落として運転し、遅れは出たものの運転を続け、事故現場の辻堂駅にゆるゆる差し掛かった。特別快速なので通過する。


 当該列車の姿がない……と、しばらく外を見ていたら、ホームを通過しきる直前で反対側に特急が停車しているのが見えた。周りにはヘルメットを被った人らがいた。この特急、先頭車両の2階は展望席付きのグリーン車で、1階はチャイルドルームだ。

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