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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2011年3月 東日本大震災とその後

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生活資金、雇われて貰うか自営で稼ぐか

 神楽のアルバイト話をいくらか聞いて、まだ疲れが残っているので眠り翌朝、僕は茅ヶ崎の家に帰った。その間に何度も緊急地震速報が発報された。


 家は無事で、時沢家と同じく壁掛け時計が落下した程度で済んだ。時計は壊れていなかったが電池が外れていたため、2時46分で止まっていた。


 帰り道にスーパーやコンビニに何軒も寄ったが、食料品はほとんど置いておらず、家の近所、平和町のスーパーに辛うじてイチゴジャム入りコッペパンが1個残っていたのでそれを購入。空腹だったので鉄砲道の歩道を歩きながら食べた。トビに襲われなくて良かった。家のすぐそば、松ヶ丘(まつがおか)の鉄砲道とラチエン通りの交差点で緊急地震速報のサイレンが流れたのは、数あるそれの中でやけに記憶に焼き付いている。


 翌日、鉄道は電力不足のため間引き運転で仮復旧したものの、僕は大学に行かなかった。都内に出ている間にまた大きな地震が起きて帰れなくなるリスクが高いから。


 その後、2週間に及ぶ計画停電があった。


 地震があっても来年度も単位を取らねばならないので、しばらく自主学習をした。


 他方、三郎はパッタリ仕事がなくなり、友恵は出版社と印刷会社の都合により連載頻度が落ち、4月に歌手デビュー予定だった美空、菖蒲沢さん、平沼さんのユニットは無期限延期。イラスト系の専門学院に通う凛奈、演技系の専門学院に通う瑠璃、澄香は大きな影響はないが、地震は今後のエンターテインメント市場にとって大きな不安要素であるため、プロになれる可能性が低くなる恐れがある。


 結果的に、僕がいちばんの安全牌だ。もっとも今後、作家としてデビューできるかは全く不明だが。


 数ヶ月経ち、首都圏は少しずつ元の暮らしへと近付いていったが、節電を強く求められていた。電力使用制限令により、鉄道は夏になっても間引き運転が続いていた。


 そんな中、僕は社会経験を積んでおこうと神楽の助言を得ながらボランティアや短期バイトをした。


 茅ヶ崎中央公園で開催されたフリーマーケットをメインとしたイベントの案内ボランティア、とある企業の社員寮のトイレ、風呂の清掃、お湯張り係、渋谷の道案内アルバイト。


 けっこう働いた結果、2011年4月から年末にかけて70万円ほど貯まった。


 雇われてコツコツ働くって、割が悪いな。いくら頑張っても規定の賃金しか貰えないじゃないか。時給だって十円上がれば良いほう。


 高校時代、動画の広告収入で稼いでいた僕は、世の現実を思い知った。しかし知れただけでも人生にとっては利益だ。


 クビになる可能性はあるが雇われてほぼ確実にお金を貰う、雇われるより大きなリスクを背負って自分で何かを創って稼ぐ、生き方は人それぞれだが、僕は前者で社会を知り、地盤を固めてから後者へ移行しようと改めて思った。


 僕のような社会不適合者且つ不審者がいきなり自営で生き抜けるほどこの世はラクじゃない。クソどもに邪魔されたり、自分との闘いもある。


 また、夏ころから仕事が行き詰まっていた面々も徐々に復調し、活躍の場を得るようになってきた。というと大したことなさそうだが、三郎に関しては3ヶ月間無収入、友恵は連載が滞ったため原稿料はなく印税収入のみとなり、痛手であった。


 大学入学から約2年、創作とは距離を置いていたが、そろそろ何かを思い描いても良いかもしれない。

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