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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2011年3月 東日本大震災とその後

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ご当地作品を創るきっかけ

「アニメ、またつくりたいなぁ」


「どうしたの? 唐突に」


「おっとまた緊急地震速報」


 ケータイには警報音、外ではきょう何度目かわからないサイレンと防災無線が響いている。ほぼ同時に震度3か4くらいの地震。もう慣れた。幸いこの部屋には倒れてきて人間が大きなダメージを喰らいそうなものはない。洋服箪笥もなく、衣類は押し入れにケースを格納して、そこに保管しているらしい。


「揺れ、収まったね」


「うん、それで、僕は高校時代、学校の潤沢な予算と動画配信で稼いだ微々たる資金でアニメをつくってたんですよ」


「この一年近く、過去の栄光としてイヤになるほど聞かされたわ。仲間のみんなは無事?」


「無事みたい。あの揺れの後、いちばん忙しそうな人が即座にタイムラインに出現した」


 いま僕の仲間で最も忙しいであろう人は、歌手デビューのため怒濤のレッスンと鬼のトレーニングの日々を送っているであろう美空と愉快な仲間たち。タイムラインに即座に現れたのは美空だった。ああいうタイプの人は地震や災害が発生すると親族に電話するより先にSNSに現れる。僕もその一人。


「そう、良かったね」


「神楽の周りは?」


「東北に何人か友だちがいるけど、無事を確認できたのは、まだ一人だけ」


「そっか。無事だといいね」


「……うん」


 僕は敢えて神楽の顔を見ないようにしたが、唇を締め、眼を潤ませていると思う。


「話題が逸れたね。まあ、あの、今回、北海道から沖縄まで揺れた大きな地震があって、東北地方には甚大な被害があって、そんなときにね、例えば茅ヶ崎でいえばサザンみたいな、地域を象徴するものがあると、それは大変、復興の助けになるんじゃないかと。そこで僕にできるのは、キャラクターを生み出して、物語を紡ぐということで。つまるところ、以前から抱いていた、地域に根差したキャラクターと物語をつくりたいっていう想いが一層強くなったということなんですよ」


「それはいい考えね。なら今度は、東北が舞台の作品でもつくるの?」


「それもやりたいし、茅ヶ崎周辺を舞台にした作品もやりたい。サザンは強いけど、地域の力になるコンテンツはいくらあってもいいから。でも、お金がない」


「なら、アルバイトでもしてみる?」


「ねずみ講とかマルチとか、そういうのはお断りだよ」


 逃げ場のない空間で、僕の脳裏に不安が過った。


「ううん、時給1050円から1300円くらいの、至極普通のアルバイト」


「例えば?」


「そうね、私がやってきたのは、ドラッグストアの店員、清掃員、駅員、イベントスタッフ、素人劇団のエキストラ、バナナの叩き売りと労働力の叩き売り、精密機械の部品旋盤(せんばん)、バリ取り、それから……」


「すごいいろいろやってるね、全然怪しくなさそうな仕事。僕、神楽のこと誤解してたよ」


「というと?」


鵠沼くげぬま辺りの高級住宅街に住むお嬢様で、アルバイトなんてしたことないと思っていたら、僕よりずっとハイキャリアだった」


村岡むらおか辺りの建て売り住宅に住む庶民でびっくりした?」


「まあ、正直」

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