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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2009年7月

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261/307

スウィートビターガールズ、デビュー!

 卒業制作のアニメーションが完成し、披露の日がやって来た。1月上旬、始業式の日の放課後11時半、講堂にて。


 ポップキュートな女の子のキャラクターデザインがウケたのか、僕と同等かそれ以上に不審な男女のほかにも、スクールカースト中層勢や、過去ネコを助けて車に轢かれたヤンキー、校長やアニメは好きでもなさそうだが流行には敏感な中年教員まで見に来ている。ヒマだからなんとなく見に来た人もいるだろうが、それでも良い。楽しんでもらえたら勝ちだ。


「おお、緊張するっす」


「ククククク、わらわの才能が少しばから世に出るときが来たのう、先輩たちが卒業して次回作からが本番じゃが、まずは第一歩じゃ」


 最後部の壁際、福助と雨後レインボウが心情を述べる中、凛奈は黙ってまだ暗いスクリーンを見つめていた。


『間もなく、アニメ制作部と第2放送部によるアニメーション作品、『ハートフルライブ!』の上映が始まります。照明を落とし、室内が暗くなりますのでご注意ください』


 放送部によるアナウンスが流れた。作品タイトル『ハートフルライブ!』は、‘心があふれるライブ’という意味合いを込めた。


 何人かお喋りをしていて癇に障ったが、上映は時刻通り始まった。



 ◇◇◇



「う~ん! マカロン美味しい幸せ~」


 冒頭のスイーツを堪能するシーン。みんなでマカロンを頬張り幸せを噛み締めている本番前の控え室。ピンク、水色、黄色、色違いのふりふりな衣装に身を包んだ奏多かなた花風はなか夏蜜なつみは、のんびりお茶会を開いていた。白いティーカップでいただく無糖のダージリンティーも美味しい。


「奏多はほんとうにスイーツ大好きよね」


 ティーカップ片手に慈愛の笑みで奏多を見つめる花風。


「うん、大好き! はあ、幸せ~。ほっぺがツヤツヤ!」


 ぱあっと華やいだ笑みで頬をさすり、幸せを噛み締める奏多。


「あ、そろそろ私たちの出番だよ!」


 夏蜜が呼び掛ける。


「よーし、きょうもみんなにハートフル、届けるちゃうぞー! せーの!」


 私たち、スウィートビターガールズ!


 手を重ね、掛け声ひとつ、くうへ放つ。ライブ前の儀式だ。


 観客はみな黙った。


 ステージに立つ三人。観客は描き込んでいない。いま観ている僕らが観客だからだ。だから、客数は想定できなかったから「みんなー! きょうは来てくれてありがとー!」とか、観客がいなくてガッカリする描写はなく、真顔で深呼吸をして、アイドル曲らしからぬビートに合わせて足踏みした後、ダンスを始める。


 萌え萌えキュン! な見た目に反するベースを強調した前奏に、観客の「あれ?」が窺えた。



 ◇◇◇



『ハッピーライフゲット!』

 作詞、作曲、編曲:清川真幸

 歌唱:スウィートビターガールズ


 やりたいことやって生きたいんだ

 誰かが言った「この世は修行の場だ」って

 ならモノにしようじゃないか

 幽体離脱しちゃうかもね

 あきらめる気はさらさらないんだ

 たとえ死にたくなったって 


 苦をハッピーと思えるほど出来ちゃいないし

 ハッピーばかりで生きられないのもわかってる

 法被でも着て食い縛れ涙目


 調子乗った楽の先には落が待ってる

 石橋叩いて渡っても泥沼に嵌まる

 無難に生きてたってそれはそうだろ

 難なく生きられるわけない人生

 イージーモードは後悔と引き換え


 気持ち悪いって罵られたって

 それを絶ったら私じゃないだろ

 それは敗者の諦めか

 でもあなたと私は違う魂だ


 やりたいことやって死にたいんだ

 誰かが言った「人生楽しんだもん勝ち」だって

 なら楽しんでやろうじゃないか

 全身全霊空回りしたって

 錆び付いて動けなくなったって

 何度火が消えたって

 

 出来やしないって否定されたって

 それを絶ったら私じゃないだろ

 それは勝者の優しさか

 ならのし上がるしかないな

 

 やりたいことやって生きたいんだ

 誰かが言った「この世は修行の場だ」って

 ならモノにしようじゃないか

 幽体離脱しちゃうかもね

 あきらめる気はさらさらないんだ

 たとえ死にたくなったって

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