どの道を選んでも人生は険しい
「おお、問題ない」
「マジっすか! ひゃほーい!」
「ククク、我が魔の手に懸かればアニメの一つや二つ……」
福助と雨後の第2原画を見たが、問題ない仕上がりだった。これを凛奈が修正すれば動画はなんとかなりそう。
いや、まだ万策尽きないとは言い切れないけれども。編曲とかまだやること山の如しだし。
そんな心配をしつつ日は過ぎて、作業は前作と比べ順調に進んでいった。人数は少ないものの内製率が高まり進捗管理がしやすくなったのと、粗削りだが手は速い福助と雨後。来年度からは二人のうちどちらかが総作画監督になると思われるが、その点は心配だ。
後輩ができて、僕らはほんとうにここを去るのだと、実感が湧いてきた。福助と雨後だと、僕らがつくってきたアニメとは作風ががらりと変わるだろう。僕が上矢部さんの作風からがらりと変えたように。
思えばあのときよりは、だいぶマシになったかな、アニメ制作部。徹夜作業したのに出来上がったのはガタガタのアニメともパラパラ漫画ともいえないもので、客席が冷めたっけ。
帰宅して、引き戸を閉めてパソコンに向かい、両親が怒鳴り合う声をヘッドホンで遮断し編曲に取り掛かる二人の部屋。妹の灯里はベッドでうつ伏せになりイヤホンを装着して動画サイトを見ている。
清川家は事実上崩壊しているが、家族の住居がバラバラになるのも時間の問題だろう。
よく海外ミュージシャンはマリファナを吸うと聞くが、躁鬱状態の日々で頭を冴えさせたい、という気持ちは理解できる。僕はマリファナも大麻も煙草もやらずにいるけれど。
なお僕の周囲の近況は、美空は変わらず僕らの作品のアフレコに参加しつつ歌手デビューへ向けて準備を進めている。
友恵は受験勉強のため、文化祭があった9月に前作を完結させてから新連載の確約はせず、新作はぼちぼち描き進めている。受験が終わって連載開始の目処が立ったらもっと広い作業部屋を借りてアシスタントを雇えばいいのにと思っている。
三郎は推薦で都内の美大に進学決定。一方世間は不景気により新規開店や改装する店舗が減り、営業を続けている店舗でも絵を描いてもらう余裕がなくなってきたため、仕事は減っているそうだ。今後はデザインTシャツを始める方針らしい。
長沼さんは相変わらず絶好調の人気声優。とはいえハードな業界に身を置いているため、彼女には常に嵐が吹き荒れているであろう。
僕も、そこに突入するために頑張ってるんだよなぁ。
とはいえ人生なんて何をやっても修羅だから、どうせなら好きなことで藻掻きたい。だからこの道を選んだ。これは何度でも肝に銘じよう。




