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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2009年7月

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258/307

新入部員、福助と雨後

 三人それぞれに各キャラクターを演じてもらい、凛奈が配役を決めた結果、奏多るりは瑠璃、花風はなかは美空、夏蜜なつみは澄香が演じることとなった。


 役者が決定したところで、こんどは楽曲制作やコンテなど僕と凛奈の仕事は山積み。


 中でも修羅なのはアニメーション制作全般。歌手デビューや受験のため、鎌倉清廉女学院のメンバーには頼れない。友恵や三郎も同様。


 人手不足に四苦八苦しながら一週間が過ぎた。


「僕は、このまま、死ぬのかな」


「私も、このまま、死ぬのかな」


 絵心のない僕が楽曲、シナリオ制作とコンテを描き、凛奈がコンテを清書する。今回は作画監督も凛奈だ。


 生死の境を彷徨いながらパソコン室の机に突っ伏す僕ら。


 このままでは過労死する。そんな危機感を抱いていたとき___。


 出入口のインターフォンが鳴ったので、のそのそとそちらへ出向きモニターを確認すると、チャラそうな160センチくらいの男と黒縁眼鏡をかけた紫髪の女が映った。


 紫髪のほうは色が目立つから覚えている。名前は知らないが、文化祭で僕らのアニメを見に来ていた。


 あまり関わりたくない雰囲気の人たちだなぁ……。


 僕は気重に解錠して、タッチボタン式ドアを開けた。


「お疲れ様です! 俺、入部希望の大岡おおおか福助ふくすけって言います! 1年14組っす! 先輩たちが卒業したら部員ゼロになって廃部になるって聞いて、入部を決めました!」


 威勢の良い金髪男。野郎って感じで苦手なタイプだ。


「え、あ、そうなんだ。アニメ好きなの?」


「こう見えて俺、バリバリのオタクっすよ! いつか地元の沼津ぬまづがアニメの舞台になって盛り上がるのを夢見てるっす!」


「沼津が地元なんだ。静岡県はアニメ不毛の地って言われてるからね」


 神奈川県の西隣で凛奈の地元、熱海もある静岡県は、静岡市清水(しみず)区が国民的アニメの舞台になっているものの、青年向けアニメの舞台には滅多にならない。故にアニメファンの間ではアニメ不毛の地と呼ばれている。


 大岡の地元という沼津は漁師町で、何度か訪れたイメージだと車の運転が乱暴で、たまにしか行かないのに行く度に自動車事故を目撃したり、いまでも愚連隊が活発なイメージがある。かつてそのような雰囲気だった湘南にも暴走族を描いた物語があるが、沼津を舞台にアニメをつくるとしたらやはりヤンキーものだろうか。


「それで、そちらは?」


 僕はドギマギしながら紫髪の女のほうを向いた。初対面恐怖。


「しゃ、社家しゃけです……」


 派手な外見に反してドモリ声の彼女。


「えーと、下の名前は?」


「……れ、雨後レインボウ、雨の後と書いて雨後です」


「おお、考えられた名前だね。雨の後には虹が出る。苦労の先にきらめきがある」


 最近は変わった名前が多いが、なるほど親の想いを感じる。


「え、あ、はい……」


「雨後ちゃん! いい名前だね! 私、3年5組の咲見凛奈! 雨後ちゃんは何年生?」


 後れて凛奈が腰を上げてこちらへ出向いてきた。


「1年、13組です……」


 13組。なかなか自ら言い出しにくいクラスだ。僕も13組だったら俯いてドモるだろう。


「了解! それじゃさっそくだけど、私の描いたキャラクターと、この絵がすごく下手くそで反吐が出る清川真幸部長の描いたコンテに当てはめて描いてみてくれるかな?」


 ほんと、みんな僕に対しては容赦ないよなぁ……。


「わかりました!」


「はい……」


 凛奈が二人をデスク前に誘導し、5人1列のデスクの右端に福助、左端に雨後を座らせ、僕が描いたコンテをコピーして1枚ずつ配った。1カットで、奏多、花風、夏蜜の三人がステージに立ち歌い始める前のシーンだ。


 さらりと2原撒きをしたが、果たして二人は上手く描けるだろうか。描けても描けなくても凛奈が作監修正をするには変わりないが。

 お読みいただき誠にありがとうございます。


 構成変更により3週間ぶりの更新となりました。


 内容としては、当初設定で真幸、凛奈と同時入部を予定していたものの没となった福助を1年生として登場させ、全く新しいキャラクターとして雨後が生まれました。真幸、凛奈が卒業後は彼らが湘南海岸学院のアニメ制作部を担ってゆくこととなります。

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