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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2009年7月

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256/307

役者? 星川美空

 小悪魔的な杏子ちゃんがバックヤードに引っ込み、フロアは静まり返った。僕ら以外に客はいない。


「杏子ちゃん、あれで8歳か。大人だなぁ。僕が8歳のころなんか、いまは住宅地になった空き地でオニヤンマとかトノサマバッタを追いかけたり、夜は流れ星が見えないか空をまじまじと見たり、マリ○カート64で線路に侵入して遊んでたよ。どれもいまでもやってるけど。虫の追っかけは場所を変えて」


「進歩がないのか、もはや究極なのか」


「どっちも正解だね。そういう基礎的なものに加えて、アニメ制作とかほかのこともするようになってるだけ」


「アニメといえば、役者未定のキャラクター、良かったら私なんてどう?」


「え、いいの? 歌手デビューのこととか色々あるでしょう?」


「うん、歌手の話は受けようと思う。売れなくてもクビになるだけで違約金とか借金とかはないみたいだし。でも始めるのは4月以降だから、卒業式に発表のアニメならできるよ」


 売れなくてもクビになるだけ。なるほど、学生だし、そのくらいの心持ちのほうがいいかもしれない。だが生半可な気持ちでやると菖蒲沢さんや音楽関係者その他ステークホルダーに多大な迷惑がかかる。それは美空も承知しているだろう。


 他方、しれっと役者を引き受けようとしているけれど、美空は一体どれだけの才能を持っているのか。もしやノリで引き受けていざやってみたら棒読みなんてことはなかろうか。


 そうだったら、最悪僕が可愛い女の子を演じようか。


 いや、それなら瑠璃か澄香に二役やってもらったほうがいいか。


「お待たせしました、お汁粉とあんみつです。ごゆっくりどうぞ」


 僕と美空は杏子ちゃんに「ありがとうございます」と会釈した。


 日曜日、凛奈がキャラクターデザインを上げてきた。キャラクターは暫定的に湘南海岸学院の夏制服を着用している。これから名もなき三人のキャラクターに声を吹き込むわけだが、物語の内容が決まっていないのでとりあえず日常芝居を用意した。


 日曜日、第2放送部の部室に集まった僕と凛奈、瑠璃と澄香、そして美空。


 美空のみ私服だが、そういうことのみでなく慣れぬ面子の中に入ってアウェー感がある。


「えーと、きょうはお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。これからキャラクターの声入れをしていただこうと思っております。役者の皆さま、よろしくお願いいたします」


 僕の挨拶に、瑠璃は「よろしくお願いしまーす!」と元気に返事し、澄香と美空は会釈した。


 この二人、芸能界でやってゆけるのだろうか。


 将来を心配しつつ、30分ほど台本の読み込みを行い、声入れを始めた。

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