心弾む作品に
「清川くん、さっきから顔が不安定で気持ち悪いよ」
情緒不安定な僕を、凛奈だけが見ているパソコン室。
「僕は生まれたときからずっと気持ち悪いよ」
「なにその生まれたときからどんぶりメシみたいなの」
「熱海の人がよく仙台のネタ知ってるね」
「茅ヶ崎の人がよく仙台のネタ知ってるね」
「どこかで知ったんだよ。ネットの海かな」
仙台か。彼女はいま、どうしてるだろう。
「ネットの海は広いね」
「バーチャルの人海だからね、人の数だけ情報がある。それで凛奈、デザインはどう?」
「キャラクターもプロップも、けっこうできてきたよ。シナリオは?」
「どうしよう。歌う女の子がいいかな、戦う女の子がいいかな、戦って歌う女の子がいいかな、男子キャラは必要かな」
ストーリーがないのにプロップができている暴挙。戦う女の子なら衣装と戦闘用具を、歌う女の子なら衣装のデザインだけで、楽器がなくてもなんとかなる。
「たった5分のアニメであんまりキャラが多いのはなんだかだから、男子はいいや。それに、戦うって、何と?」
「世の不条理や、打破すべき壁と」
「ニチアサアニメの敵って、それを擬人化した感じで、清川くんの偏屈が意外と的を射てるよね」
「的を射てるって、ちゃんと言う人、珍しい気がする」
「的を得てるって間違えられやすいよね」
「そうそれ。さて、どうしましょうか、お話」
「私は、女の子がとびっきり可愛いお話がいいな」
「そこだよね、凛奈のトッププライオリティーは。あとは観客の心が弾む要素を織り交ぜて……」
「でも、オタクじゃないティーンに向けた作品って、残念な展開になりやすくない?」
「そういう人たちに合わせると、そうなるよね。原作者と原作ファン泣かせの青春実写映画」
「最後くらい、そういうのナシにしたい」
「それは僕も同意。いい作品をつくろう。それで、わかってもらえる人に喜ばれる作品にしよう」
「うん」
凛奈は唇を引き締め、微笑んだ。




