人生は障害物だらけ
歌手デビューのオファーがあり、私がそれに乗ろうとしていることを、意外なことに誰も反対しなかった。あの母でさえだ。
あんたなんてどうせ会社に入ったって使いものにならないんだから、少しでも稼げるならやってみればいいんじゃないの? とのことだった。
世にありふれた下賎な傀儡とはいえさすが私の母、よく理解している。
そう、仮に私が一般企業の事務職になったとして、エクセルはマウスを使わないと操作できそうにないし(学校のパソコンの授業ではマウスを使わなくても使いこなせるようになりなさいと言われた)、コールセンターのオペレーターになったら客に何を言われているかわからなくて硬直するか、頭にきて電話を切るだろう。まさかのまさかで管理職になったり社長になったら鬱病や倒産は必至。
そう、私は社会の歯車、定型群にはなれない。
しかし、歯車に注す潤滑油にはなれるかもしれない。
それが絵本作家だったり、歌手だったりするのかもしれない。
人間には、この世に生きる意味がある。
会社員や公務員として生を受ける者もあれば、フリーランスとして生を受ける者もあり、その両方であったり、はたまた浮浪者としてだったりもするだろう。
真幸は一旦企業に就職して社会を学び、後に独立を目指すらしい。それに近い路を辿った先輩として、長沼さんがいる。元会社員がいまや大人気声優だ。そういう人生もある。人生いろいろ。
だが私の経験上、どの道を辿っても物事はそう簡単に上手くゆかない。行ったとしても、先般この世を去ったおばばのように、最期に盛大な苦しみが待ち受けている。
どうせ障害だらけの人生なら、少しでも心躍るほうへと進んだほうが良い。
しかし歌手がそうかといえば、微妙なところでもある。歌手はあくまでも絵本を売るための広告的手段として考えているのが現状。
確かにステージに立って歌うのは気持ちの良いものだが、熱量は菖蒲沢麗華と比較すれば、茶碗一杯の卵かけご飯と背脂マシマシ大盛りラーメンくらいの差がある。
だから困る。芸能関係の仕事はとんでもないローギャラの場合も多々あるというし、それなら好きなことでなくもも時給千円のアルバイトをしたほうが心身ともに健康かもしれない。
ブラックバイトというのもあるけれど……。
あれもまた、汚ない大人どもが辞めたくても辞めさせてくれないパターンだ。
ほら、どのみち人生は障害物だらけ。




