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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2009年7月

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途方もなく遠い日でも

 風がさらり心地良くなってきた。セミの声はあまり聞こえない晴れた9月の終わりは、高い雲がぽつぽつ。病みがちな日々を清めに辻堂海浜公園の開放的な芝生を歩く。はしゃぐ子どもたちや陰鬱な僕の上空を、アキアカネや翅の茶色いギンヤンマが飛び交っている。


 小学校低学年のころ、僕は公園の端にある交通公園で箱型の空中自転車に乗って遊んでいた。地上10メートルほどのレールの上を進むので、スリリングで楽しい。


 未就学であろう子どもたちの中を歩く一人の不審者。公園はマナーを守って利用すれば立ち入る権利は平等なので、あまり周囲を気にしないようにする。


 ああ、僕は置いてけぼりだ。


 僕の周囲では友恵や三郎が漫画や絵だけで生計を立てられるプロとして活動していたり、人気声優の長沼真央さんもいる。それはいままで通り。しかし新たに、羽賀原瑠璃や烏山澄香が声優養成所への入所が決まり、プロとしての一歩を踏み出した。彼女らは声優が厳しい世界であるのを見越し、年1回の学級査定試験で圧迫面接がある湘南海岸学院を選んだという。


 思考、趣向や所作、クレペリン検査の作業量、学業成績等を総合的に評価される試験で僕は特級1組、最上学級に3年間在籍してきたが、目指すものに辿り着けなければ意味がない。夢は叶わなかったが努力したという実績が残るなんて自慰は最低限、崇高な思念の下、自他共に利益をもたらす幸福を得なければ無意味。


 と、ここまでは想定内だったり、常日頃考えていることだ。


 僕が何より驚いたのは、美空の歌手デビューオファー。まだ結論は出していないそうだが、デビューすれば手の届かない、連絡さえ滅多に取れない存在となるかもしれない。長沼さんとは普通にメールや電話をしているけれど、個々や事務所の事情があるからこの限りではない。


 取り残された。


 子どもたちと、保護者たちの中に混じり、僕は芝生に立ち尽くした。


 客観視すると、なんかたそがれちゃってるナルシストか、限界不審者。


 とりあえず、帰ろう。


 駐輪場から自転車を押し、海や江ノ島が見える歩道橋を目交まなかいに、サイクリングに降りて自転車に跨がった。家までは辻堂団地を抜け、鉄砲道に入って平和学園前を通ると早いが、敢えて遠回りし、江ノ島を背に、海を横目に砂の堆積したサイクリングロードをゆく。


 大丈夫、海の深いところまで入ったり電車に飛び込んだりもしない。電車に轢かれた人も、水死体も見た僕は、とても自分はそうなりたくないし、この世は正負の法則で成り立っている。人生、楽しいことと苦しいことは自殺しないで天寿を全うすれば半分ずつ。


 なら僕の虐げられ続け、取り残された続けている人生は、いつになるかわからないが報われる日が来る。それが、途方もなく遠い日でも。


 いや、途方もなく遠いのがつらいんだよ。

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