4百円のティーバック
「せっかく来たんだし、お茶でも飲んでく?」
「え、マスターは……」
マスターのお店なのに、アルバイトの人が勝手に開けて入って良いのだろうか。
そう思っている間に、お姉さんは鍵を開け、シャッターを上げた。
「いいよいいよ、ティーバックの紅茶を1杯4百円で出してるような店だし、ちょっとくらい」
値は確かに高いと思うけれど、それでも犯罪は犯罪なのでは。
けれど私は言われるがまま、店内に入ってしまった。音楽のかかっていない、照明も点いていない、何か出そうな不気味な雰囲気。
次第に目が慣れてきて、私は前回と同じカウンター席で紅茶をすする。
そこで気持ちが、不法侵入から明日、その先へと向いた。
「学校、どうしよう、明日から」
きょう一日くらいなら、風邪で休んだと言っても疑われないだろう。しかし何日も続いては、担任やクラスメイトに不審に思われ、親に連絡が行く。保健室登校だってしたくない。
「行かなきゃいい」
「そう、簡単に言われても」
「行くと死ぬんでしょ?」
「はい」
「じゃあ行かない。とにかく生きるの最優先。そうだ、小説、良かったら読ませて」
「やっぱり読むんですか」
小説のこと、忘れてると思ったのに。
私は渋々、通学バッグから駄文を書き散らした原稿用紙を取り出し、カウンター越しにお姉さんに手渡した。




