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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2009年7月

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237/307

幽世の境界

 ふと降り立ったのは、小学生のころよく遊んだ公園の最寄りのバス停。里山を開拓した市内最大の公園。


 バス停のすぐ前方にある横断歩道を渡り、アップダウンのある道路の歩道を道なりに進んで突き当たったところにあるのが、その公園。


「変わってないなぁ」


 この公園が出来てから、まだ10年も経っていないと思う。玄関口のすぐ右手には、里山の傾斜を利用した長いローラー滑り台。いまも子どもたちが楽しそうに遊んでいる。


 右側のエリアは子ども向けの広場になっていて、私のような怪しい者が一人で行っても不気味なだけなので、楽しそうな子どもたちを横目に左側のエリアへ行ってみる。こちらは森林浴や自然観察をメインとした里山散策エリア。両親に連れられて何度か行ったけど、当時は開拓途上で、立ち入れる区域が限られていた。


 階段状になっている斜面を下る。まだ葉が蒼い楓の木には、街では聞こえなくなりつつある蝉時雨。踏み込んでしまいたい場所へと心をいざなうヒグラシの声が胸を焦がす。


 このまま生きていて、何か良いことはあるのだろうか。


 このまま森と、同化したい。


 楓の林を抜けると、森を拓いた畑と、その右側に更に北側へと続く砂利道がある。空は広く、鬼蜻蜒おにやんまだろうか、大きな蜻蛉とんぼが悠々と舞い、それよりずっと高いところにはたかが弧を描いている。


 俗世から離れた、自然の世界。


 市街に身を置いていたって自然の中で生きているのは大義的に変わりない。


 しかし世界の色は違う。


 延々と消えない、いじめによる障害に胸を焼きながら空を見上げ、ざくざくと砂利道を歩む。すぐ右には森、左に竹藪。終着点には大きな池。


 以前ここまで来たのは覚えている。しかしこれより先は当時拓かれていなかった未知の世界。どうも現在は道が拓かれたようなので、池に沿って進んでみる。この道はアスファルトで舗装されている。


 蝉時雨や小鳥のさえずりが遠くに聞こえる。池のほとりにはまるくなって座り込むかもの親子と、棒立ちする一羽の青鷺あおさぎが並んでいる。彼らは水中の獲物を狙っているのか。


 池の脇を抜け、がまや背の高い草が繁る地帯を抜け、森をくぐって開けた場所に出た。


 あぁ、ここは、ここは私を、あの世へといざなっているのか。もういいよと、神様は私を、ここへ導いたのか___。

 お読みいただき誠にありがとうございます。


 来週は改稿作業のためお休みさせていただきます。

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