表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2009年7月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

236/307

心の在り処

 机に突っ伏して一眠りし、まもなく上映時間。僕ら制作陣は講堂へ向かった。


「わお、お客さんいっぱい来てるじゃん。やったね!」


 友恵が眠気と緊張入り乱れる僕にウインクした。


「うん、テイストがガラッと変わったから不安だけどね」


「届けたい人の心に届けばいいよ!」


「うん」


 講堂の重たい防音扉2枚を両手で開くと、暗がりの中に並べられたパイプ椅子はほぼ満席。立ち見客もいる。


 昨年までアニメは軽音楽部や吹奏楽部、ブラスバンド部、合唱部の合間のオマケに過ぎなかったが、湘南海岸学院のアニメ制作部はクオリティーが高いと評判を呼び、集客につながったのだろう。


『本日は、湘南海岸学院学園祭にお越しいただき、ありがとうございます。まもなく、アニメ制作部作品、『心の在り処』の上映を開始いたします。鑑賞されるお客さまは、このまま講堂でお待ちください』


 第1放送部の女子生徒による案内放送が入った。僕ら制作陣は、観客たちの背を見ながら、最後部の壁に身を寄せて上映を見守る。


 真っ黒だったプロジェクターのスクリーンが白く染まり、携帯電話の電源をお切りくださいなどの表示が出る。マナーを守ってこそ実現する快適な鑑賞と、いきなり本編に入ると心構えができないだろうと配慮したもの。それが無音で30秒流れた。


 さて、いよいよ、封切りだ。



 ◇◇◇



 カーテンを閉めきった薄暗い部屋。鳴り響くけたたましいアラーム。


 新しい朝が来た。絶望の朝。


 カーテンを明けて差し込むまばゆい光は、私の心を癒さない。


 きょうは、休日なのに。明後日まで、学校に行かなくていいのに。


 筆安ふでやす洋子ようこ、中学二年、14歳。私は、学校でいじめられている。


 9月下旬、中学生活は、ようやく半分を越えた。あと一年半もこの生活を続けるくらいなら、死んだほうがいい。


 ベッドの脇、充電器を差したケータイを開いた。私はいわゆるケータイ小説を書いていて、昨夜続話を投稿した作品のアクセス数をチェックする。


 ゼロだ。


 私の作品は、誰にも必要とされていない。命綱である小説にさえ需要がないすなわち、私がこの世に存在する意味は皆無。


 あぁ、もう、何もかもいやだ。


 朝食はスクランブルエッグでさえ喉を通らない。小学校低学年のころからネグレクトをしてくる両親は一応、私を心配してくれている。


 リビングでただぼんやりとテレビを見て午後2時を過ぎたところで、私はふと、白いポシェットを肩に掛け外に出た。バス停の前を通りかかったとき、たまたま来たバスに乗り込んだ。


 このまま二度と帰らなければ、もう学校へ行かなくて済む。


 そんなことを思い、街から田畑へ移ろう車窓を眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ