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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2009年7月

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231/307

憑依型役者

 昼休憩に、僕らは宅配ピザを頼んだ。配達員に入り組んだ校舎内まで入ってきてもらうのは気が引けるので、校門前に僕がひとりで立って待つ。不審者だ。長沼さんか瑠璃が付き合ってくれても良かったのに。


 役者だったら想像してくださいよ、校門の前に棒立ちしている男の姿。制服とはいえ不審じゃないですか。僕みたいな挙動不審なのが立ってたらより一層じゃないですか。


「はぁ……」


 僕にもうちょっと、威厳があれば。


 とはいえ、仕切りたがりのリーダーも考えもの。中2のとき、同じクラスの4名で横浜の気象台へ職場体験学習に行った。そのときのリーダーが次はああしてこうしてとやたらめったら指示、何か意見すれば「いいから言うこと聞け」という仕切りたがりで、頭にきた僕と他2名は横浜駅で彼奴を撒いて帰った。


 結果、帰宅すると既に親に電話が入っていて、逃亡した僕らは翌日、職員室に呼び出されて謝罪回りをした。


 凡クラ先公共は「人の迷惑考えろ」とかなんとか言っていた。正直何を言われたかよく覚えていないけれど、ありきたりな言葉だと思ったのは覚えている。


 いま思えば、逃げて騒がせたのは悪かったけど。


 とかく僕が思うのは、仕切りたがりの締め付けが強いリーダーだとチームが分解するよということ。


 対して僕は、カネもコネも人望もない、加えて挙動不審で気持ち悪い不審者。スケジュールを管理して、最低限の注文をするだけ。余計なことを言って主に友恵を怒らせて、周りに支えてもらわないとまともに事を進められない未熟者。そんな僕に、みんなよく付き合ってくれている。特に澄香。


 僕みたいな弱気なリーダーは、メンバーがモラリストでないと組織が崩壊する。だからほんとうに人に恵まれた。


 ケータイもいじらず校門前で棒立ちすること30分。ピザが届いた。長沼さんが出してくれたお金を払ってブースに戻る。


「どうもー」


「こちらこそ、ごちそうさまです」


 簡易テーブルの前に座る長沼さんに、僕は釣り銭を渡した。僕の礼に、澄香と瑠璃も続いた。


 今回のピザは無難にマルゲリータ。さっそくいただきます。


「瑠璃ちゃんは、なんか引っ掛かってることとかないの?」


 びろーんと口でチーズを伸ばして頬張った長沼さんが訊いた。


「私は憑依型なので、身も心もキャラクターになりきっちゃうんです。なのでいまのところ行き詰まった感じはしないんですけど、憑依できないキャラクターが現れたときは真っ暗ですね」


「なるほど、そりゃ大変だ。想像を超えることに対処するには、想像力を膨らませるしかないからなあ。それこそ、自分の魂をキャラクターの奥底に宿す感じで」


「自分とはタイプが全然違うキャラクターでもですか?」


「そうだね、もちろん、キャラクターの生い立ちだってあるから、自分だけを主張して見せるのはバッドだけど。あくまでもキャラクターに魂を込めるんだから」


「ですよねぇ」


「月並みだけど、色んな経験をして、本を読んだり映画を見たりして、引き出しを用意しておくといいよ。ね、真幸くん」


「え、僕に振るんですか」


「制作総指揮だもん」


「ううう……」


 僕はほんとうに、この作品を素晴らしいものに仕上げらられるろうか。まだ上がってきていない原画もあるし。

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