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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2009年7月

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222/307

不審者とポップキュートガール

「ヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘッ……」


「うわ何あれ気持ち悪い」


「通報したほうがいいんじゃない?」


「でも制服着てるし、海学うみがくの生徒でしょ」


「でもマジで頭おかしいでしょアイツ」


「クスリやってんじゃない?」


 タケキャブ20とレバミピドを服用してるけど薬の作用じゃないよ。


 通行人の女どもに後ろ指を差されながら、僕は犬の呼吸で舌を出し、白目を剥きながら学校に向かってゾンビのように手をだらだら、頭をふらふらさせながら歩いていた。頭おかしいなんて重々承知。なんとでも言ってくれ。


 きょうは文化祭3週間前の登校日。絵コンテに行き詰まって体調を崩しがちな僕は、もうゾンビになるしかなかった。1時から6時まで、約5時間眠っているものの、まだまだ睡眠不足だ。僕の理想は0時から8時までの8時間睡眠。


 教室に着いて、机に突っ伏した。周囲は夏休みの思い出や宿題の進捗状況についての話題で盛り上がる者が多い。僕は昨夜、絵コンテの作業が一段落したところで物理の宿題に取りかかったのだが、公式がゲシュタルト崩壊していた。


『Q/P=tanθ-μ/1+μtanθ』


 ということだけは覚えているけれど、果たしてなんの公式だったか。


 勉強は、やってダメならあきらめよう。


 真幸、心の川柳。


 冷房の効いた教室、意識が遠退き始めたとき、ケータイのバイブが鳴った。凛奈からメールだ。


『部活のとき話がある』


 改まってどうしたのだろう。告白なんてことは有り得ない。


 ま、まさか、退部?


 鬼の作業量とスケジュールに、凛奈もとうとう耐えられなくなった?


 実は4月に新入部員が5名入ったものの、2週間内で全員やめた。


 うう、やだ、やだよ、僕、部活で独りぼっちになっちゃう……。


 ていうか、廃部になっちゃう?


 一抹の不安を抱えながら、僕は9時から正午までの3時間を過ごした。


 正午を回り、教室を出た僕はひとりとぼとぼと部室へ向かった。まだ眠く怠い。いまにも意識が飛びそうだが凛奈に対する不安感も募っているので心身ともにまぢ病み状態。誰かさんがSNSに書き込んでいた文言を借りるならば『病み闇病み闇まぢ病み!!』。


 昼食はコンビニおにぎりの梅、ツナマヨネーズ、辛子明太子、焼き鮭、昆布、オムライスおむすび。このオムライスおむすびというのが意外と美味しいので、まだ食べてない人はぜひ食べてみてほしい。


「あ、やっと起きた」


 いつの間にか凛奈がいる。やっと起きた? 確かに食後、とうとう限界を迎え意識がプッツンして机に突っ伏したが。


「もう4時だよ」


 僕はのっそり頭を上げ、凛奈とは顔を合わさず正面のパソコンの画面に焦点を合わせた。電源は入っていない。


「朝?」


「夕方」


「なら良かった」


「良くないよ。4時間も意識吹っ飛んでたじゃん」


「オフトゥンで吹っ飛ばしたかった。そのほうが良い眠りを得られた」


「じゃあきょうはもう帰って寝よう。でも、寝る前に話がある」


 うう、ついに、このときが来た。僕は視線をキーボードに落とした。


「あのね、私……」


 もぞもぞ身をよじり、頬を赤らめている凛奈を、僕は俯いたまま目だけ動かして彼女の表情を視界に入れた。


 ん? これはもしや、告白? とか思わせておいて奈落に突き落とされるのが僕のこれまでのパターンだ。


「私もアニメ、つくりたい!」


「あ、アニメ?」


 ああ、良かった、とりあえず退部の申し出じゃなかった。


「そう、私がシナリオを考えるの!」


 両手の拳を握り、脇を締めて思いの丈をぶつける凛奈。


「私ね、ポップでキュートな美少女キャラクターが好きだから、卒業までにそういうのを1本つくりたいの!」


「あ、美少女。凛奈、カラフルなスイーツと可愛い女の子の組み合わせ好きだもんね。うんつくろうつくりましょう卒業まで悔いを残さないようにね」


 退部でないことに安堵した僕は、変質者独特の饒舌モードになった。不思議なことに、普段滑舌が悪くてもこういうときは噛まない。


「ほんと!?」


「ほんとほんとほんとです。文化祭が終わったらさっそく取りかかりましょう。凛奈の中ではイメージはあるの?」


「うーん、なんとなく」


「なんとなくか。そうか、まあでもなんとかなる」


 退部しなければなんとかなる。


「うん! なんとかなるなる!」

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