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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2009年7月

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221/307

心の在り処を求めて

 友恵の作業部屋に着いて倒れた僕は、今夜ここに泊めてもらうことにした。


「はいはい、おじいちゃん、あーんして」


「あーん」


 もぐもぐ。


「うん、おいしい」


 19時、美空は家に帰って僕に代わり作業を進めてくれるらしく、結果友恵とふたりきりの部屋。僕は友恵にざるうどんを食べさせてもらった。つるつるのうどん、かつお出汁、生姜、青ネギのシンプルな味わい。


「少しは元気出た?」


「胃がムラムラしてる」


「それはムカムカっていうんじゃない?」


「そうともいう。まあ、あの、あれですよ、僕はプレッシャーに弱いんです。今回は学校から莫大なお金をかけてもらってるし、去年成功してるから、今年は絶対失敗できないし、作品は音楽主体じゃなくてストーリーメイン。実質商業デビュー作になるわけですよ。ポートフォリオに載せられるんですよ」


「良かったじゃん、ポートフォリオに載せられるような作品をつくれるなんて、滅多にないよ」


「そうなんだよね、友恵はそういうの、乗り越えてきてるもんね」


「私も毎回プレッシャーだけどね」


「ふーう……」


 僕は大きく溜め息をついた。


 胃炎により身動きが取れない僕はそのまま仕事部屋に泊めてもらい、朝を迎えた。カーペットの上で寝るのも意外と悪くない。しかし……。


「ううう、胃が痛い……」


 ということで、友恵に礼を言って部屋を出た僕は、近所の内科を受診。ストレスによる胃酸過多症と診断され、胃酸を抑える薬(タケキャブ20)と胃の粘膜を守る薬(レバミピド)を処方された。薬局を出たら予めコンビニで買っておいたエネルギーインゼリーを飲んでからペットボトルの水とともに服用し、帰宅した。


 自室に篭ってベッドに横たわる昼間。セミの声が窓越しに聞こえてくる。ミンミンゼミが一頭。


 鎌倉清廉女学院のメンバーと凛奈のおかげで一昨年のような作画崩壊はなく、絵面としてはとても綺麗。そこに僕の脚本が付いて行けているか。


 無理矢理花火大会の描写を入れ、スケジュール的にも内容的にも問題ないか。


 学校側の投資に見合った作品となっているか。


 そして何より、観客に『観て良かった』と思ってもらえる作品になっているか。そんな心配に支配されている。


 心配したところで状況は好転せず、気楽にやったほうが良い結果が出るとは思うけれど、これが僕の性というものだ。


 薬が効いてきたのか、症状が徐々に落ち着いてきた。


 セミ、いいな。そうだ、僕の作品には音響効果が足りない。音響だけなら作画を追加しなくても、適当な場所に追加できる。昨年の『君といっしょに』は明るめでアクティブなのに対し、今年の作品『心の在り処』は文学的で静かな作風にしている。低能だったり騒がしかったり野蛮だったりする学校に居場所を見出だせないキャラクターを描いた作品だ。そう、正に僕のような高尚な人間の模様を描いている。


 つまるところ人見知りの陰だ。


 そんな人たちに希望を与えられる作品になったらと、そんな願いを込めた。

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