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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2009年7月

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219/307

クリティカルヒット!

「ああああああっ、うううううう……。あのクソ轢き逃げ野郎、後で絶対ツケくるからな」


 おばばを火葬してから3日後の土曜日、友恵ちゃんが仕事用に借りたお部屋に私と真幸がおじゃまして、湘南海岸学院文化祭用のアニメの制作を進めることになったのだけれど、ここに到着する直前、ケータイ見ながら運転の自転車のタイヤが歩いていた真幸の股間および腹部に直撃したらしい。真幸は玄関から上がるとその場で倒れ、うずくまって悶え始めた。


「よくここまで我慢したね」


 友恵ちゃんが真幸の前にしゃがみこんで言った。真幸のアングルからだと友恵ちゃんのデニムショートパンツの隙間から下着が見えそう。


「その場でも倒れたよ。でも留まっても誰も助けてくれないから頑張ってここまで来たよ」


「えらいえらい、よく頑張った」


 淡々と言う友恵ちゃんは真幸の頭をポンポンと軽く撫でた。


 私たちの日常は、きょうもこんな感じで展開している。


 さてさて、制作作業のほうだが、真幸が脚本を書きつつ、それに沿って私や友恵ちゃんなど周囲の人々が分担して絵を描いてゆく。総作画監督は絵を描ける者の中でいちばん暇そうという理由から、真幸が私を指名した。仲間内で「暇そう」と言ってブチ切れなそうなのが私だけというのもあるだろう。


 まあ、大学はエスカレーター式で受験はないし、高3としては暇な部類に入るだろう。なんなら学校をサボって暇な時間を捻出しても良い。


「でさ、真幸」


 もう虫の息の真幸に、友恵ちゃんが問う。


「このアニメ、ほんとうに文化祭で流す気なの? あと2ヶ月だよ」


 そう、今回のアニメは昨年の作品が好評だったことから学校から部費を多めに貰えたらしく、その分高いクオリティーを期待されている。


 クオリティーが高いということは、作画枚数や工程その他も増えるため、作業に時間がかかる。ついでに上映時間が昨年は5分だったのが今年は15分となった。15分の尺で収まらない場合は動画サイトの個人チャンネルにアップロードしても良いという。つまり、予算オーバーしなければどれだけ時間が伸びても良いという大サービス。


 尺が定まらないのはかえって物語を組み立てにくいのは真幸も承知している。だから日々、もがき苦しんでいる。そこにチャリンカスがクリティカルヒット。どうせ腹部にクリティカルヒットするなら乳酸菌が良かったと真幸は話す。


 結局この日、真幸は作業に手をつけられなかった。後日、チャリンカスは湘南海岸学院の生徒と判明し、街の監視カメラに映っていた事故の瞬間を見た商店会の人が警察に通報。逮捕、退学という流れになった。

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