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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2009年7月

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214/307

晴れ着で通夜

「うーん……」


 10時に床に就いて、起きたのは14時だった。そういえば今年は平塚ひらつかの七夕祭りに行かなかったなと、思い出して後悔。きょうは私の誕生日であり七夕だが、七夕祭りは一昨日の日曜日が最終日。その日の私はというと、おばばの見舞いで藤沢よつばホスピタルにいた。


 7月上旬だが、リビングでエアコンをかけ、部屋の扉を開けておいたため、さほど暑くはない。


 と思いきや、リビングに行ったらエアコンが止まっていた。母が喪服を取りに戻って、その際にエアコンを止めたのだろう。熱中症になって私も御陀仏になるところだった。母は私が死んでも良いと思っているのだろう。夏にエアコンを止めるなど、殺意以外の何でもない。


 そうか、きょう私が死んで祖母と同時に通夜を済ませ、同じ棺桶にぶち込めばコスパが良いということか。


 そんなこともない気がするが。


 通夜は18時から。生憎死ななかった私は生きたまま参列するだろう。


 4時間後、やはり私は生きたまま斎場に着いた。参列者は私、母を含め7名。見知らぬおじいさんおばあさんが来た。出張先から戻ってくる父は明日の告別式には参加する予定。


 どこかの寺の坊主が65万円モノのお経を唱え、私たちは順に焼香した。数十分の読経でそんなに稼げるなら、私もやってみたい気がしなくもないような感じがした。


 母と並び最前列に着席して、今朝写真店でつくってもらった遺影を遠目に見る。微かに笑んでいるその写真を撮影したとき、祖母が心から幸福を感じていたかは察し得ない。


 人はこの世でやるべきことを終えると、一生を終えるという。一人ひとりに役目が与えられているそうだ。


 祖母の役目が何だったのかは知らないが、とりあえず役目を終え、今生の卒業式を迎えた。


 祖母の旅立ちに、母の目は潤んでいた。鬼の目にも涙というものか。


 逆に、涙が浮かぶ気配もない私は薄情なのかな。


 だが涙を浮かべている様子のある者は、母のほかにいない。皆薄情なのかもしれないし、そうでもないのかもしれない。


 それどころか母の後ろ、私の左後ろにいる親族とみられる見知らぬおばば、赤い着物で参列しておるぞ。黒服の群れの中でよく目立つ。


 これは我が祖母よ、相当な恨みを買っておるな。


 葬式にたくさんの人が来れば良いというものでもないだろうが、祖母は一体、どのような交友関係を持っていたのだろうか。誰かに尋ねる気もないが、なんとなく想像してしまう。


 泣く人は母のみ、ほかは静かだったり赤かったり。私は過去にも何度か通夜および葬儀に参列しているが、大概誰かがぐすぐす泣いていて、赤い服で来る者などいなかった。


 これは、なんとも混沌とした通夜だ。私が作家になったら、ちょっとしたネタになるかもしれない。そして、儀式の最中にこんなことを考えている私も、どうかしているのかもしれない。

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