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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2009年7月

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213/307

ゾンビランド茅ヶ崎

 むくり。座布団で目覚めた朝は、どうしようもなく瞼が重かった。


 ゾンビだ。私は今、ゾンビになっている。頭が重く、全身が怠い。いつものことだけれど、今朝はなお酷い。これで祖母が起き上がってきたら、ゾンビランド茅ヶ崎の始まりだ。


 窓のない部屋は薄暗く、蛍光灯の点いている安置室からの光が少々入ってくるだけ。


 もうだめだこの世の終わりだ寝不足で過労死して私もおばばといっしょに火葬されるのか……。


 そんな具合に、とにかく眠たくてからだが重い。


「あら、起きたの」


「うん」


 母は既に起床していて、冷たくなった祖母の顔を見ていた。明日の昼には火葬されるのだから、今のうちに見ておきたいのだろう。


「ちょっと、朝ごはん買ってきてくれる?」


 母は財布からおもむろに千円札を取り出し、私に手渡した。野口英世が描かれた千円札の中央部には折り目があり、なかなか使い込まれているようだ。最近は夏目漱石の千円札をなかなか見なくなった。


 古びたエレベーターで1階に下り、建物の外へ出た。ビルに囲まれた駅前の朝は、自宅周辺と比べて蒸し暑く、しかし風が強い。アブラゼミの声がどこからから聞こえる。


 母に言われた通り、私は昨夜も寄ったはす向かいのコンビニに入った。店員は昨夜と異なるおばさんだった。


 とりあえず、5百ミリリットルペットボトルの緑茶を2本、ベーコンレタスサンドを2つ購入。慣れないコンビニは、なんだかちょっとだけ冒険しているような気分だった。


 斎場に戻り、もさもさとサンドイッチを頬張ると、こんどは斎場の東向かい、コンビニの南向かいにある写真店に、母とともに遺影の作成を依頼しに行った。


 母いわく、笑顔の写真ところか写真そのものが少なく、なんとか見つけ出したどこかへ旅行したときの写真を採用した。祖父とともに写ったそれは、背後にラベンダーの丘陵がある。


「これはね、おじいちゃんとの銀婚式で行った富良野ふらのの写真なの」


 母が無表情で言った。目にクマがある。


 北海道、富良野のラベンダー畑といえば、私も昨年修学旅行で訪れた。あのときは季節が早くてまだ花は咲いていなかったけれど、咲くとこんな感じなのかと、小並感を覚えた。コスモスとラベンダーで咲いている花は違えど、なんとなく今朝見た夢と似たような雰囲気がある。


 なるほど、遺影はこうして写真の本人が写っている部分をズームアップしてつくるのか。


 出来上がった遺影はズームアップしたものなので元の写真と比べると画素が粗いものの、遠目に見て気になるものではなかった。


 写真店の自動ドアを抜けると、母が言った。


「あんたは一旦帰って寝なさい」


「うん、そうする」


 今夜6時からは通夜。こんどは制服に着替えて来なければならない。母も喪服に着替えるため、折を見て一旦家に戻るという。


 茅ヶ崎駅南口からバスに乗って帰宅した私は、我が家で唯一エアコンがあるリビングの冷房をかけて、シャワーを浴び、寝間着をまとい、敢えて自室のカーテンを開けて光を取り込み仮眠を取った。

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