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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2009年3月 宮城、福島の旅

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205/307

ふらっと飯坂温泉3

 女風呂から美空と友恵の声が聞こえる中、僕は若干ムラムラしながら飯坂温泉の熱い湯に浸かっていた。


「女風呂から声が聞こえるけど、三郎はムラムラしない?」


「しないわ。だからといって真幸にも欲情しない」


「僕みたいな不審者に欲情するような人は末期だよ。男女問わずね」


「そうかしら、あなた、案外モテるから、それが正しいなら真幸に好意を抱いた子たちは末期ね」


「う……」


 中学のとき、小説家デビューした女子に告白されたのを思い出した。彼女は仙台に引っ越して、もしかしたら今回の旅で会う機会があるかなと思ったが、結局会わなかった。彼女も末期ということになると、僕の思考は失礼に当たるか、彼女の内に秘めたるものが末期な可能性があるかだ。


 いや、しかしいいですな、女風呂から聞こえてくる声。なんでだろうね、裸でいるだけなのに、ただ声が聞こえるだけで興奮するのは。


 温泉でぽかぽかに温まって、そろそろ茹で不審者になりそうな頃合いで僕と三郎は欲情、違う、浴場から出た。美空と友恵はまだ出ていない。


 僕らは廊下に出て目の前にあるウォーターサーバーから紙コップで水をいただき、火照った身体を少しばかり冷ました。


「お待たせ―」


 脱衣所からドライヤーの音がしてしばらく、友恵が出てきた。中からはまだ音がするから、美空が使っているのだろう。風呂上がりの女子の匂いはとても良いが、な、なんと! 僕自身からも同じにおいがする! シャンプーが同じなんだ! ああ、なんだこの癒されたり欲情しちゃったりする魔性の香りのシャンプーは!


 自身から漂う香りと友恵から漂う香りと、もちろん三郎から漂う香りも同じで混沌としていると、やはり同じ香りがする美空が出てきた。


「もう夕方だし、このまま帰るのめんどいから泊まってかない?」


 確かに、ここから私鉄に乗って福島駅に出るまで徒歩と待ち時間を含めて45分くらい、そこから新幹線に乗り換えて茅ヶ崎に着くまでは新幹線を使っても概ね4時間。しかも東京駅から乗る東海道線は夜の混雑する時間帯にバッティングする。


「でも、もうお金が……」


 そう、僕にはお金がない。


「うーん、私も手持ちがなあ。そこに信金しんきんあったから下ろせなくもないけど。ちょっと待ってて」


 友恵は玄関の受付に行って、女将さんと何やら話している。


「大丈夫、泊まれる! この旅館安い!」


 ということで、僕らはこの宿で一泊することにした。友恵と三郎のお金で。

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