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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2009年3月 宮城、福島の旅

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202/307

この世の真理は案外シンプル

「ほんとに着いたね」


「僕は勘がいいからね」


 友恵が地図も見ず目的地に辿り着いた僕に軽く感心したところで館内に入り券売機で入場を購入、受付で改札をして薄暗い右カーブのスロープを上がる。左側の窓からは先ほど通った玄関口や住宅地が見える。


 スロープを上がりきるとスイッチバック式に方向転換。今度は左カーブ。数メートル進むといくつかの名作漫画の原稿や作者の人柄を紹介するブースや、漫画に登場したホテルのフロントに模した展示物、超人気の特撮作品で、バイクに乗るバッタの仮面が壁に展示されている。ファンにはたまらないだろう。ミュージアムに展示される作家に僕もなりたい。


 一通りの展示物を見て、僕らは漫画を蔵書した図書室に入った。明るく開放的で、椅子に座ってのんびり読書ができるようになっている。壁には著名な漫画家のサイン色紙がいくつも立て掛けられている。


 数ある作品の中から僕がなんとなく手に取ったのは、コンビニを舞台にした日常作品。巻末を見たところ、10年前、1998年に連載開始した作品のようだ。みんなもそれぞれ気になった作品を手に取って読み始めた。


 空調の音と各々がページをめくる音、受付の人が作業をしている音だけが響くやや静かな空間。僕は漫画の世界に没頭しながら読み進める。


 内容はコンビニ経営の超絶ハードな日々ではなく、そこで繰り広げられるメインキャラクターやコンビニのお客さんたちの人間模様が中心。


 何か厄介な事件が起きたり過酷なノルマに苦んでハラハラする物語ではなく、なんでもない日常、内面に秘めたやさしさ、人の温かさ、そういうことをシンプルに描いている。なのにどんどん夢中になって、ページをめくってゆく。


 ああ、こういう物語を、僕は描きたいんだ。


 売っていないかなとケータイで通販サイトを検索するも、やはり売っていない。


 思い詰まったときに読みたいけど、売っていないなら仕方ない。古本屋にならあるかもしれないから、こんど探してみよう。


 この世の真理は案外シンプルだ。難しく考えるよりは、思いのままに筆を走らせてみよう。

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