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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2009年3月 宮城、福島の旅

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湯けむりに眠る美空

 友恵ちゃんがお風呂に入ってから1時間が過ぎた。今回宿泊しているホテルは浴室が6畳ほどあり、広々としているから長風呂したくなる気持ちもわかる。私もこのあとゆっくり浸かろうと思う。


 その間、私は机に向かって色鉛筆でA4サイズのスケッチブックに絵を描き込んでいた。


 祖母のこと、将来のこと、諸々抱えている不安はとりあえず除けておいて、旅時間を楽しむ。お絵描きは好きでやっていることだから旅先でやっても心が乱れるどころか安定する。


 これで食べてゆけるか不安はあるけれど、これが私の生きる道だって、勉強、部活、面倒な事務作業などなどをやっているとより強く思う。


 絵本作家になりたいという夢を生々しく語るならば、絵本で食べてゆけるように頑張る。これに尽きる。


「お先ありがとー」


 友恵ちゃんがホテルの白いバスタオルで髪をもしゃもしゃしながら出てきた。


「はーい」と返事して、こんどは私が入浴する。


 ユニットバスではなく、一般家庭のそれと同じくらい広い浴室。これは良き。


「ふ~ぅ」


 白い入浴剤の入ったバスタブに、ゆっくり脚を伸ばして浸かる。温泉でなくとも心地良い。やっぱり旅行は良い。


 今回の宮城旅行もそうだけれど、真幸が企画するお出かけには『創作の糧にする』という大義名分がある。旅くらい純粋に楽しめばいいのにと思う一方、これも創作の一環だと思えばサボっている感じがしなくなったりならなかったりするので多少気が楽になったりならなかったりする。お風呂に入るのも創作のうち……。


 …………。


「美空ちゃーん」


 友恵ちゃんの声がして、フッ! と意識が戻った。お湯が冷たくなっている。どうやら長時間眠ってしまったようだ。


「起こしていただきありがとうございます」


 浴室の扉を開けて微かに湯気を浴びている友恵ちゃんに礼を言った。


「ひひっ、やっぱり寝てたか」


「はい、世俗の穢れを湯に流していたら緊張が解けて深い眠りへといざなわれました」


「そっか、うんうん、そっか! お湯入れ直すかあったかいシャワー浴びるかしてあったまってね」


「うん、ありがとう」


 こんなにも肩の力を抜いたのはいつぶりか。危うくお風呂に魂まで抜かれるところだった。


 明日の旅程は終日石巻(いしのまき)。海のそばにある『萬画まんが』のミュージアムで偉大な先人の創作に触れる創作者らしい旅。萬画のミュージアムだけれど、絵本作家志望の私にも学べることはきっとある。


 名前だけは聞いたことのある石巻にはどのような街並みが広がっているか。それも楽しみ。


 せっかく心安らげる旅行だから、今夜はゆっくり寝て明日を目いっぱい楽しみたい。

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