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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2008年9月

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人気声優、長沼真央との打ち上げ会

「世の中には僕よりもっと頑張ってる人が五万といて、僕の努力はまだまだ足りないんじゃないかって、よく思うんです」


「そりゃあいるね、五万も十万も百万も。まあ、時間をかけてがむしゃらにやっても報われないときもあるけど」


「時間をかけるよりも、合理的な方法を?」


「どうしたって時間はかかると思うけど、努力の仕方は合理的にね。とりあえず、『食う寝る喋る』」


「食う寝る喋る?」


「そう、食べて、寝て、喋る! エネルギーを蓄えて、休んで、発散する! 喋るのは、気の合う人とね」


「気の合わない人と喋ると病みますからね、特に僕みたいな陰気なのは」


「そうそう、私みたいに上司をリンチしないうちにね」


「ああ……」


 長沼さんは声優になる前の会社員時代、黒い上司を同僚と集団リンチした過去があると以前聞かされた。


「あれはまずいことしたなあ、今思えば上司だって会社に言わされてるだけの操り人形だからね」


「まあ、あまり暴力とかアグレッシブに怒りをぶつけるのは……」


 特に僕みたいな陰気な人間には致命傷で自殺に追い込まれかねない。


「反省しました。でも、声優界のほうが会社より大変。好きなことだから頑張れるけど」


「どんなことがあるんですか?」


「とても言えないようなこと、かな?」


「お、おう……」


 とんでもないスタッフのアニメが2期、3期と続いたりすると云々かんぬんみたいなことはどこかで聞いたけど、声優界も色々あるんだろうなぁ。


「そこを、そこをどうにか、お聞かせいただけませんか!?」


 と長沼さんにせがんできたのは瑠璃。澄香も興味深々をもろ出ししている。


「しょうがないなあ、声優志望の二人には教えてあげよう。耳貸して」


 長沼さんはテーブル越しに瑠璃に耳打ちした。ああ、僕も耳打ちされたい! 息吹きかけられるだけでいいから!


「うーん、なんというか、うんですね」


 想定内だったのか、瑠璃は素直に納得した様子。


「え、なになに!?」


 辛抱堪らなかったのか、澄香が心の声を漏らした。ので、長沼さんは瑠璃にも耳打ちした。


「へっ!? そ、そんなことが!?」


「全部の現場がじゃないけどね。それでも頑張れる?」


「っていうかそれは、それは……」


「私もおかしいとは思う。思うよ。変えられるほどの力がないだけでね。あと、少し慣れた」


 一体どんな話をしたんだ?


「世の中色々あるよ、でも、好きじゃないことを仕事にしてたときも色々あった。どうしたって色々あるなら、好きなことして色々あったほうがずっといいよ」


「た、確かに……」


 売れっ子声優の長沼さんにもどうにもできないことがあって、たぶん大御所さんでもどうにもならないことがある。


「それより、良かったよ、瑠璃ちゃんと澄香ちゃんのお芝居」


「ほ、ほんとですか?」


 うれしそう、キャーキャーしたい気持ちを押し殺してる澄香!


「ありがとうございます! 長沼さんにそんなこと言ってもらえるなんて!」


 瑠璃は素直に喜んでいる。


「続き、楽しみにしてるね! そしていつか、共演しようではありませんか!」


 その瞬間、瑠璃と澄香の表情が、まるで、蕾が一気に開くようにぱあっと華やいだ。


「は、はいっ!」


「頑張ります! 私、ミラクルマックスで頑張ります!」


 長沼さんからの共演のお誘いにテンションマックスの二人。


「ところで、続きって?」


 しれっと言ったけど、『君といっしょに』はあれで完結させたつもり。


「え? あれで終わりなの?」


 キョトンとする長沼さん。


 続き書けよオーラをメラメラ出してくる瑠璃と澄香。


「あ、はい、わかりました……」


 僕、もう一作抱えてるんだけどなあ。


 でも、悪い話じゃない。むしろ物凄く良い話だ。これを断るなんて勿体なさすぎる。スパッと完結させた物語を引き伸ばすと中だるみが起きやすくなるからそこは難しいところだが、やれるだけやってみよう。

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