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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2008年9月

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頑張ったのかわからない

 文化祭が無事終了し、西陽が差し込むリノリウムの廊下では、出し物の片づけをする生徒がせっせと行き交っていた。中にはろくに作業をしないで喋っているだけの連中も。


 僕も作業には参加していない。クラスメイトの名前だってぼんやりとしか覚えていない僕のような集団に混じれない者が作業に加わっても邪魔だし、そもそもクラスの出し物には手を出していないので、ひとり屋上でぼんやり夕陽を眺めていた。夕陽が富士山より左側に見えると、日が短くなったと感じる。


 陽が沈む前の数分、西の空は広くブラッドオレンジに染まって、涼やかな風が余計に胸を焦がす。


 静かに、静かに、夜がやってきて、まもなく星が瞬き始めるだろう。


 きらめくオレンジが伊豆半島の向こうに沈んで、ブラッドオレンジは暗黒になる。そろそろ引き上げよう。


 階段を下りながら、今回の作品を顧みる。


 今回は、成功できた。


 あまり成功体験のない僕は、自己肯定感が低い。だから今回成功したからといって、未来の不安が消えたわけではない。けど、進むしかない。色んなところに寄り道しながら。



 ◇◇◇



「それでは湘南海岸学院アニメ制作部の新作『君といっしょに』の成功を祝して、カンパーイ!」


 夜、市内のとあるイタリアンレストラン。長沼さんの号令に合わせて僕、凛奈、神崎さん、澄香、瑠璃、友恵、三郎、鎌倉清廉女学院の美空、菖蒲沢麗華さん、平沼穂純さんがグラスを掲げ「乾杯」を言った。


 ログハウス風で落ち着いた雰囲気でありながらワイワイガヤガヤしたレストラン。友恵みたいなうるさいのがいても違和感なしだが、本人は日ごろの疲れもあってか三郎と二人でぐでぐでしている。美空は菖蒲沢さんとお祖母さんについての話をしているようだ。


 凛奈は長沼さんにベタベタしているが、知り合ったときよりは落ち着いて会話している様子。神崎さんと平沼さんは純文学小説の話をしている。まだ互いに不馴れな感じはするが、仲良くなれそうだ。


 で、残るは澄香&瑠璃ペアと僕。僕は右端の席にいて、左隣に長沼さん、正面に澄香、斜め左に瑠璃がいる。


 なお、ただだんまりしてジンジャーエールをちびちびすすっているのは僕だけだ。


 家にいても落ち着かないし、いまこの喧騒の中で落ち着いていられる貴重な時間に次回作の構想でも練ろうかと思ったが、疲れきってただただレストランの醸す雰囲気に呑まれしみじみするしかできない。


「あー、ジンジャーエールは大人の味……」


 ぼそり心の声が漏れたが、誰も聞いていないだろう。


「お、じゃあビール飲むかい清川真幸くん!」


 長沼さんに聞かれていた。


「未成年にお酒を勧めてはいけません。でも、飲んでみたい気分です」


「ふふふ、いいねぇ、ま、二十歳になるのをお楽しみにね」


「なんだよ、自分から勧めておいて」


 苦笑しながら僕は言った。


「頑張ったんだね」


「頑張った、で、いいんですかね」


「ん?」


「僕、頑張ったか頑張ってないかの基準がよくわからなくて。もっと頑張ればもっといい作品がもっと早くできたんじゃないかとか、そんなことをよく考えるんです」


「そっか、うん、そっか」


 長沼さんは概ね理解したかのように頷く。瑠璃と会話している澄香が僕を盗み見て、同じく会話中の瑠璃が聞き耳を立てているのもわかった。

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