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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2008年9月

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涙の理由

「ふぉおおお!!」


 澄香が書いた『Thank you for watching!!』のテロップが出てアニメの上映が終了すると、僕と同じようなオーラの漂う集団から拍手と歓声が上がった。


 美空たち鎌倉清廉女学院のメンバーも拍手をしてくれている。


 良かった、とりあえず成功だ。


 その後も部活紹介の前座としてアニメが何度も流された。中には「すごい! テレビでやってるアニメみたい!」と絶賛する黄色い声もあった。


「ふふふふふ……」


 放送室で思わず不気味な笑みをこぼす。


「気持ち悪いわね」


 と澄香。澄香と瑠璃は放送担当なので放送室に缶詰状態。僕は観客の反応見たさに留まっているだけの邪魔者。


「明るくて素直な静の中の人とは思えない物言いだね」


 静はそんな暴言を吐かないのに中のヤツときたら。まったくこれだから三次元は。


「私は役者。あくまでも役者。でも、アンタ以外にこんな物言いしないわ」


「でも、澄香ちゃんだって涙目になって嬉しさを隠しきれてないよ」


 と瑠璃。


「う、うう、だ、だって、私たちの演技で歓声が上がるなんて、うううううう……」


 瑠璃が、いや、観客が澄香を泣かせた。割と素直でいい子なんだからツンツンしなきゃいいのに。


 なんだかこの場に居づらくなったので、邪魔者でしかない僕は放送室を出て客席の外周に回り込んだ。せっかくだから一番後ろの壁際から観客の様子を観察しつつ観賞してみよう。


 次は軽音楽部のライブだ。会場にはぞろぞろと人が集まっている。その間にもアニメ『君といっしょに』は流れている。


「なにあれ萌えアニメじゃんマジキモイ」


 どっかの見知らぬ野郎が言った。うるせぇ学校公認のアニメだクソ。


 このような罵声はけっこう聞こえてきたが、「なにこれ高校生がつくったの? すごい!」といった称賛の声もけっこう聞こえてきたので僕のメンタルは保たれた。


 否定的なことをいうヤツから漂うオーラを見て見ろ。淀んでるから。


 そう思う僕も淀んだオーラを放つ不審者だが、自分の趣味でないものを頭ごなしにけなしたりはしない。たとえそれが視覚的に合わないものでも。内容が公序良俗に反するもので、それを学校側が認めているとしたら意見はするだろうけれど。


 しばらくすると、軽音楽部のライブが始まった。学祭では選抜バンドが出るのでどれも上手。会場は大盛り上がりだ。


 のそのそと講堂から地上階へ這い上がった僕は、ガラス張りで陽光差し込むリノリウムの廊下にこちらへ向かってくる凛奈と神崎さんを見つけた。


「あ、清川くん! 良かったね! 成功したね! うううううう……」


 僕を見つけるなりその場で泣き崩れた凛奈。


「あ、あ、また泣いちゃった……。大丈夫ですか……」


 神崎さんの文言から察するに、凛奈はこの前にも泣いたのだろう。


「さっきからこんな調子なんですか?」


 僕は神崎さんに訊ねた。


「は、はい、舞台裏でお客さんの反応を見たときと、先ほど鎌倉清廉の皆さんと会ったときも」


 3回目か。みんないい子だなぁ。しみじみそう思う。


「あ、真幸―!!」


 友恵と三郎が現れて接近している。


「友恵ちゃん、サブちゃあああん!!」


 いつの間にそんなふうに呼ぶ間柄になったんだ。


「え、え!? どうしたの!? 真幸が泣かせた!?」


「罪な男ね」


 友恵と三郎に在らぬ誤解を生じさせたので、僕は事情を説明した。


「そっかそっか、成功して良かったね」


「良かった! 良かったよおおお!! 前作ヘボかったから余計に良かったよおおお!!」


 余計な一言を……。昨年の文化祭は上矢部さん主導で観客無視の完全に趣味に走った作品なうえに、作画はガチャガチャだったからなぁ。クタクタに疲れて発表はできたけど、やりきった感はイマイチだった。


 ああ、良かった。これ、僕のストーリーが制作側も観客も納得できる内容じゃなかったらただただ疲労しか残らなかったじゃないか。そういう意味でもめでたしめでたし。

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