麻薬
「ああっ、うう、ふはぁ、ああああああ……」
深夜2時、文化祭用アニメの作業を止め、机に伏してピクピクする僕、清川真幸。なんとか完パケまでもうすぐのところまで辿り着いた。5分アニメである今作の大半を占めるミュージックシーンのコンテがまだ少し残っている。
文化祭用アニメ、動画サイトに上げる自主制作アニメ、そして最もやりたくない勉強。
マルチタスクという大波が僕を容赦なく襲う。
ちなみに、まだどれも終わっていない。勉強に関しては無限道だ。どこまで行っても終わらない。これを早く、一刻も早く取りやめたい。
勉強とか好きでもない仕事というのは、生活を安定させるための精神安定剤的な要素が強い。そこから学ぶことは多々あるけれど、僕はどこかで見切りをつけたい。この精神安定剤は麻薬だ。経済的な安定と引き換えに心をボロボロにしてゆく。
そんなことを、自分の心身に適合しないことをいつまでも続けていたら、後悔だけの人生で途方に暮れて、『みんな我慢して会社に行ってるんだ』なんて、悩める人につまらない社会通念を押しつける、『活きる』を諦めさせ、負のスパイラルへ引き込む蟻地獄のような大人になってしまう。どこにでもいる、そんな量産型で大層幸せには見えない大人に。
さて、寝るか。
ベッドに横たわったものの、眠れたのは1時間半後の3時半ころだったと思う。
10時に起きて、そこそこ混雑し始めた時間帯の江ノ島まで自転車で行ってすぐ引き返して、作業にかかって机に突っ伏して、気がつけば夕方16時。
非生産的な一日は、文字にして書き起こすとどれだけ早いものか。
自分の好きな方向へ前進する、気分転換にどこか遠くへ出かける、そんな充実した一日の半分くらいにしか感じられない。
そして僕はまた、重たい心身で作業にかかる。勉強の心配さえなければ、大変な作業で多少気が重かったとしても、ずっしり病むことはないのに。
勉強はしておいたほうがいいけど、やっぱりどう考えても将来合わない仕事はしたくないな。
と、憂いているうちに僕の担当部分はひとまず終了。あとは機材のある学校にコンテを持ち込んで、凛奈と神崎さんにチェックしてもらい、必要があればいっしょに直したり調整してゆく。
「よし、できた!」
「ヂュフフ、デキ、デキちゃいました……」
3日後、完パケに歓喜する凛奈と神崎さん。僕は舌を出して白目を剥いている。既にレコーディング済みの音楽とアニメーションが合っているのを確認して、完成パッケージとなった。
前回の文化祭よりは良い作品ができたと思う。よし、今日の授業は教科書を立てて顎に手を当てていよう。もう体力の限界だ。




