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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2006年8月

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19/307

哀と不安

 憎い。自他をこんなにも憎むなんて、今生初だ。


 セミの声が遠くに聞こえる森に囲まれた黄昏時の露天風呂。からだは温かいけれど山のさわやかな風が頬を撫で、その温度差が心地よい。


 という感想をなんとか紡ぎ出せる。けれど心は安らげず、全身を哀と不安が支配している。


 おばさま方に混じり露天風呂に入れば少しリフレッシュできるかなと思ったけれど、それでも効かないくらい私は壊れている。


 それ以前に欠陥品だと思い知らされて右拳に力がこもり、左手首をへし折ってしまいたい衝動に駆られている。


 そうだ、サウナに入って老廃物を流そう。そうすればスッキリして冷静になれるかも。きっと日頃の疲れがたたってるんだ。


 思えば清川さんにも奇妙なテンションで接してしまって申し訳ない。


 まだいま一歩馴染めていなくて懸命に距離を縮めようと思いつつも思考がまともに働かなくて、とりあえず明朗に振る舞った結果、恐怖心や鬱陶しい印象を与えてしまった気がする。


 でもせっかくできた創作仲間。一方的な想いかもしれないけれど、彼とは今後仲良くやってゆきたい。ならばどうにか平常心を取り戻し、信頼を回復せねば……。


 室温50℃。想像を絶する暑さ。オレンジの灯りが照らす狭い室内は湿度が高く、もやもやしている。滞在限度は4分までに定められていて、出入口に一つだけ砂時計が置いてある。


「ちょっとお嬢さん、大丈夫かい? 私より先に入っていたでしょう?」


 と、先ほどからいるお婆さんに声をかけられたときには既に砂時計を一度ひっくり返し、半分が流れ落ちたときだった。


「はい。ちょっとからだをスッキリさせたくて」


「そうかい。でも無理したら、必要なものまで全部流れて下手したら倒れてしまうから、お気を付けよ?」


「はい、お気遣いありがとうございます」


 ではお先にねと、おばあさんはカラカラ引き戸を開けて退出した。

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