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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2008年8月

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189/307

もう何ふんばりかしますか

「最近、美空はどう?」


 小豆とふわふわ氷の食感、コンデンスミルクミルクの甘味に脳天を刺激され、飲み込んでから僕は言った。


「オババが死の淵を彷徨っているのを見守ったり見守らなかったりの日々かな」


「そっか」


 確かにそうかもしれないけど、言い方……。美空の心にはお祖母さんに対してそれだけ渦巻くものがあるのだろう。


「でも、神様はそう簡単には死なせてくれないみたい」


「病気になってから寝たきりで長く生きる人もいるよね」


「うん。いつも苦しそうにうめいてる。それを見てね、私、思ったの」


 美空が宇治金時のお茶だけがかかった苦い部分を口に運んで咀嚼した。


「何を?」


「誤解しないでほしいのだけど、これはあくまで私の祖母の話でね」


 つまり、他の人にも当てはまりそうな話なんだな。僕は「うん」と頷いて、続きを促した。


「祖母はずっと、誰かに文句ばかり言って自分を保とうとしてきた人間なの。それで、私や、周りにいた人たちはその毒を浴びせられ、しかしその言霊ことだまは誰よりも、祖母本人を冒していった。狭い世界で後ろ向きに生きてきて、人を罵ってきたばちがいま、当たっているんだなって、弱った祖母を見て感じた。ううん、祖母はきっと、威勢が良かったころから弱い人間で、必要以上の虚勢を張るから人が寄ってこなかった。言うならば東京砂漠の中で、たまたま近くを歩いていた人に吠えて、自分を誇示する人だった。本人なりの正義で、他者を諭したい想いを込めていた場合もあったけど」


 窓の外を見て、遠い目で語る美空。憎い相手が苦しんでいるのを喜んでいるでも、哀れに思っているでもなく、少しの感傷を忍ばせて淡白な風。


 少し間を置いて、美空が言う。


「もし自分が病気になったとき、そういうふうに思われないような生き方をしたいなって、思いましたとさ。めでたくないめでたくない」


「めでたくはないね。僕も訳のわからない生き物だから、色々と気をつけなきゃ」


「こういう人生の身近なことも、いつか作品に活かせるといいね」


「人生に無駄なことはないからね。いまつくってるのはやたら爽やかなミュージックアニメだけど、いつか大人向けの物語をつくるようになったら活きるかも」


 と、将来を見据えてみるものの、まず僕には目先にある萌え系アニメの知識というか、そういうキャラクターたちが歩んできた道のりを知らない。今回手がけているような主人公が明るい音楽付き日常系アニメは、円満な家庭でまっすぐのびのび育ったという、いびつでひねくれた環境で育った僕とは正反対の人生を送ってきたわけだけれど、そんな僕が生み出した彼女たちを観た客が違和感を抱かないか心配。


 これは誰かに相談しようと思ったが、僕の周囲には美空をはじめ、歪な環境で育ってきた人ばかり。ということで、やはり歪な環境で育ったけれどもプロの漫画家である友恵に相談したところ、「真幸が好感を抱ける人の明るい部分だけを切り取ればいいんだよ」と言われたので、とりあえずそうしてみた。友恵にしろ美空にしろ、表面上明るい部分はある。つまり、表向きの部分を切り取ったのが今回のキャラクターとなる。


 それをどこまで再現できたか。文化祭まであとわずか。たった5分程度のアニメだけれど、かなりの熟考と少しの楽観を交えてつくってきた。


 さて、質の良い糖分を補給したところで、あともう何ふんばりかしますか。

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