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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2008年8月

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宇治金時とオニヤンマ

「ああ、美味しい……」


「身に染みる……」


 作業を一区切りさせて学校を出た。いつも通り一人で歩いていると、学校のすぐそばの交差点で美空と遭遇した。疲れたのですぐそこの行きつけの甘味処『富士』で糖分と癒しを補給しに行くところだったという。僕も糖分と癒しを補給したかったので、「よろしければごいっしょしても……」とボソリ言ったら「うん」と言ってくれたので、お言葉に甘えた。


 僕と美空は宇治金時にコンデンスミルクをトッピングしたかき氷に色んなことを癒されていた。両者とも同じものを注文した。


「美味しそうにお召し上がりいただいてありがとうございます!」


杏子あんずちゃん! 美味しいよお、美味しいよお……」


 通路を通りかかったのはこの店の看板娘、杏子ちゃん。御年7歳。


「どうぞ、ごゆっくりしていってくださいね!」


「はひ~」


 ちゃんと「はい、ありがとうございます」と言いたかったが、体力の限界で言えなかった。杏子ちゃんはとことこと厨房へ戻っていった。


「おばあさんの調子はどう?」


 美空のおばあさんはただいま入院中。元気だったころは美空の創作活動についてあれやこれやと文句を垂れていたとのこと。


「なんというか、いままで人に強く当たってきた分の報いを受けているかのよう」


「お、おお……」


 そうか、うん、そうか……。


「真幸は、アニメのほうなどどう?」


「鬼」


「ヤンマ?」


「オニヤンマなんてよく知ってるね」


「私は、バカにされているの?」


「いや、虫の知識なんか、ウスバキトンボとか僕が吹き込んだもの以外にはほとんどないと思って」


 ウスバキトンボは夏になると広場などで群れになって飛翔しているオレンジのトンボ。春先に南西諸島を飛び立ち九州から北海道まで群れによって行き先が分かれ、定住した地で子孫を遺すが、寒さに弱いので旅をした群れやその子孫は冬になると卵を含め全滅する。


 そんな儚いトンボだが、夏にはカやハエなどを食べ、別種のトンボを含む肉食の虫や鳥類に食べられる、食物連鎖には欠かせない存在。


「オニヤンマくらいは知ってるよ。日本一大きなトンボ。茅ヶ崎でも北のほうに行くと見るね」


 オニヤンマ。日本一大きなトンボ。茅ヶ崎の北部にある砂利道を歩いていたとき、ウスバキトンボを追いかけ捕らえ、森の中に消えていったのは鮮明に覚えている。ウスバキトンボが物凄いスピードでトルネードしながら逃げると、オニヤンマもそれに合わせトルネードして飛んでいた。


「うん。あれはすごい。ああ、アニメと勉強以外のことを考えたのは久しぶりだなぁ」


「私はアニメ、けっこう楽しいけどなあ」


 お、うれしい。素直にうれしい。


「僕も、アニメがなかったらとっくに自殺してるようなヤツなので、取られたら死ぬ。好きなことだから頑張れてるんだ」


「そうだね、でも、一定間隔で休んでね。好きなことだと気づかないうちに限界を超えて致命的に体調崩しちゃうから」


「そうだ、そうなんだよ。勉強はただただ義務感でしかないけど、好きなことはハイになっちゃうからね」


 勉強も頑張り過ぎている気はするが、あれはほんとうに苦痛でしかない。

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